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【日刊マンガガイド】『宝石の国』第3巻 市川春子

2014/09/01


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『宝石の国』第3巻 市川春子
講談社 \600+税
(2014年8月22日発売)


ダイヤモンド、硬度10。アメシスト、硬度7。ルチル、硬度6。そしてフォスフォフィライト、硬度3.5。
作中に出てくる、少年でも少女でもない、宝石のように美しい存在たち。それぞれがモース硬度と思われる数値ばらばらの硬さを持ち合わせている。硬度3.5の主人公のフォスことフォスフォフィライトは、あまりに脆くすぐ壊れてしまう。

本作は、宝石擬人化マンガではない。
かつて「にんげん」がいた世界で、不老不死の無機物として結晶化した、高度な存在を描いた作品だ。
宝石と化した者たちを、月人と呼ばれる仏のような謎の存在が頻繁につれさりに現われる。それを撃退しながら、宝石たちは集団で暮らしている。
ところがフォスは、その硬度の低さからなにをやっても体が砕けてしまう役立たずだ。

無機物化した存在たちは死ぬことがない。宝石たちの間では、肉を持った存在に対して、砕けると腐る下等なやつら、という会話もされている。見た目は少年+少女でも、実年齢は数百から数千歳なのだから、たしかに高次元かもしれない。
しかし本当にこれは理想の存在なのだろうか? そんななか、中途半端な硬度のフォスは幾度も砕け、ほかのいろいろな物質と融合していく。腕や脚を失い、フォスの体はどんどん別のものと混じりあう。
フォスへの禅問答のように、自らや宝石たちの身体の崩壊が、読む者に疑問を投げかけてくる。

『宝石の国』最大の見所は、鉱物と化した存在の表現だ。硬ければ戦いやすいものの、その分衝撃に弱く砕け散ってしまう。柔らかければ柔軟に吸収できるが、破損も多く不便。
ダイヤモンドは堅く戦闘向きで皆を守り、アンタークチサイト(南極石)は常温では溶けてしまうので氷点下でないと存在できず、硫化鉱物のシンシャは毒性が強いためひとりぼっち……などなど、各種鉱石の特徴が、フォスとの関わりの重要なポイントとして描かれている。
鉱物マンガとして読むこともできるので、ぜひ名前を検索しながら読んでほしい。

フォスの成長譚であると同時に、生の脆さとエロティシズムが詰め込まれたマンガだ。
砕け散る宝石たちの表現は、死ではない崩壊。少年の上半身・少女の下半身をもつ宝石の無機質性と、硬さと柔らかさを兼ね備えた身体が戦う姿はあまりにも美しい。
……とまあ「美しい」なんて言葉だけではとても本質は伝えられない。
無音のなか壊れゆく鉱物たちの麗美さは、マンガという媒体でしか表現できない。



市川春子先生インタビュー記事はコチラ!
【インタビュー】上は少年、下は少女。性別のない宝石たちは「色っぽい」! 『宝石の国』市川春子【前編】
【インタビュー】妄想がかたちづくる物語は、自分自身でも予測不能! 『宝石の国』市川春子【後編】



<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」

単行本情報

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