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『フルーツ宅配便』 第3巻 鈴木良雄 【日刊マンガガイド】

2017/06/21


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『フルーツ宅配便』

  
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『フルーツ宅配便』 第3巻
鈴木良雄 小学館 ¥552+税
(2017年5月30日発売)


泣けるデリヘルマンガとしてSNSで話題を博しているのが、このたび第3巻が発売された『フルーツ宅配便』だ。

タイトルは店名を意味していて、フルーツの名前が源氏名としてつけられた女性さんたちが届けられるため、フルーツ宅配便。
そしてフルーツの産地・特徴・風味がそれぞれであるように、ここで働く女性たちにも様々な背景がある。
そんな女性たちを見守るのが、会社の倒産を機に故郷に戻ってフルーツ宅配便の店長となったサキタと、サキタに仕事を紹介した裏稼業の男・ミスジ。彼らにもまた、様々な屈託がある。

さて、本作がなぜ泣けるデリヘルマンガなのか。
それはあくまで風俗マンガでも、エロマンガでもなく、人間ドラマだからだ。

女性たちも、また客となる男性たちも弱くてずるくて、それでいてたくましくて、不器用このうえない人たちばかり。
そんな男女が織りなす人生ドラマ。
そこに〈性〉の描写はおろか裸はいっさいない。
ただ、むき出しの〈生〉がふてぶてしくあるだけだ。

第3巻でもクスリと縁を切れなくなってしまう「ブルーベリー」、母の面倒を見ている女性が新生活を求める「洋梨」、DV被害者の裏にあったものを描く「バナナ」など、様々に心に刺さる、様々な人生の断片を1話2ページでかいま見せられる。

暗い話や重い話は苦手だという読者には、本作はある意味、エグいかもしれない。
現代の縮図がそこにはあって、社会派でもある。
それでも本作の味わいは、それこそフルーツさながら、さわやかすっきりとしたものだ。
いわゆるハッピーエンドのエピソードもあれば、途方に暮れるしかないエピソードもある。
ただ、絶望やどん底の果てにある希望や救いを見る視点が本作にはある。
「ライチ」のデリヘル嬢のこんなセリフが印象的だ。

「夢が叶う人ってだいたい自分が叶えられそうな夢を目標にしてるから叶うのよ。
無謀な夢が叶っちゃうほど人生甘くないわよ」。

人生自体は甘くない。
それを徹底的にふまえたうえでの、ふまえているからこそのかすかな、ほのかな甘味。
そこはたとえば真鍋昌平『闇金ウシジマくん』にもあい通じるものだ。

スイカでいう塩なのだろう。フルーツの甘さを引き立て、引き出す塩。
塩をかけることで、その味わいがわかるフルーツ。
著者は、デビューの契機となった第1回ビッグコミック&ビッグコミックオリジナル合同新作賞の大賞受賞作『田園に囲まれて』でも地方都市の閉塞感とそこで暮らすなかでの希望を描いている。
本作はうってつけの題材でもあるが、すでにして塩加減と甘さの引き立て・引き出し方――人生の機微を描く匠。
あなたはこの物語にしょっぱさを知るか、甘さを知るか、しょっぱさの先の甘さを知るか。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

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