365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

6月26日は国際麻薬乱用・不正取引防止デー。本日読むべきマンガは……。

『集英社文庫 包丁人味平』 第8巻
牛次郎（作） ビッグ錠（画） 集英社 ￥667+税

6月26日は「国際麻薬乱用・不正取引防止デー」。
この日は薬物乱用と薬物の不正取引に反対する、国際連合制定の国際デー。
つまり、いつにも増して「ダメ、ゼッタイ。」度が高まるデー。
そんな「国際麻薬乱用・不正取引防止デー」にふさわしいマンガといえば、『包丁人味平』をおいてほかにない！

『包丁人味平』は1973年から77年にかけて「週刊少年ジャンプ」誌上で連載された料理マンガ。
『釘師サブやん』でパチンコの出玉を調整する釘師を主人公に描いた牛次郎・ビッグ錠コンビが、『釘師サブやん』に続いて描いた職業マンガであり、そのあと様々な流儀を生み出しコミック界の一大ジャンルを成した“料理マンガ”の嚆矢となった作品でもある。

ひばりが丘の駅をはさんで南と北にオープンした白銀屋と大徳デパートはより多くの人を呼びこむため、多くの人々の胃袋を掴むカレー屋を目玉として出店させることに。
白銀屋はアメリカ帰りの実業家、マイク・赤木が経営する名店・インド屋を、対する大徳デパートは屋台カレーで大衆料理の頂点を目指す塩見味平に白羽の矢を立てる。

今ここにひばりヶ丘カレー戦争が勃発した！
白銀屋と大徳デパートの代理戦争ともいえる様相を呈するカレー勝負は、単なる料理勝負にとどまらず、どちらが効果的にお客を呼びこめるかといった駆け引きの部分も争点として描かれ、『味平』のなかでもスケールの大きい戦いが描かれた。

そんな料理マンガの金字塔と「国際麻薬乱用・不正取引防止デー」を結びつけるのが、カレー勝負編に登場する“カレー将軍”の異名を持つ男・鼻田香作だ！
己の武器である鼻をガードするための鼻マスクなのだろうが、この怪しげなビジュアルインパクトは絶大だ。
鼻田は10歳の時からカレー屋のキッチンで働き、名だたるカレーの名店を渡り歩き、あげくの果ては日本に飽き足らずフランス・イギリスにまで修行に出かけ、カレーで有名な各国の料理屋を転々とし、ヨーロッパの一流レストランのコックでさえ、ことカレーに関しては右に出る者がいなかったという男。
味平は日本人が好む醤油をカレーに加え、万人に好まれる「味平カレー」で鼻田に対抗する。

しかし、6,000種類ものスパイスのなかから30数種類のスパイスを調合して鼻田がつくり出すカレーの味は天下無類。そうして完成したのが「ライスの上にまるでコールタールでも流したような…」カレー戦争の最終兵器。
これこそ、カレー将軍・鼻田香作が5日間研究室にこもり、世界中のあらゆるスパイスを駆使して完成した世界でただひとつのカレー、その名も「ブラックカレー」だった！
ひと口食べればたちどころに夢見心地。まるで魔術にかかったように手が勝手に動いて口のなかへカレーを運ぶ。その味はといえば、おいしいとかまずいとかを通り越してなんともいえない魅力のある味。
しかしこれが料理の味だろうか？料理というよりもこれはむしろ……。

そう、スパイス(香辛料)とはそもそもすべて刺激の強いものばかり。
何千種類というスパイスのなかには麻薬に近いものもあるという。
何十年とスパイスを嗅ぎ続けた鼻田はいつの間にか麻薬中毒となり、禁断のカレーを生み出してしまったのだ。調合したスパイスを炒め始めたかと思えば、「ギャーッ‼」と叫んでフライパンごと投げ捨てたり、挙げ句そのままキッチンで昏倒したり。
鼻田の言動はエキゾチックというよりエキセントリック。そしてエキサイティングで目が離せない。

とにかく読んでいると間違いなくカレーが食べたくなってくること請け合い。
麻薬は「ダメ、ゼッタイ。」なのだが、スパイスの調合にひたすら心血を注ぐ鼻田の姿は、敵ながらあっぱれだ。
『味平』を読んでカレーを食べつつ、また『味平』を読もう！

＜文・秋山哲茂＞
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』（小学館）、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進！』（徳間書店）など。学年誌の傑作ウルトラ記事を集めた新刊『学年誌 ウルトラ伝説』が6月28日に発売！ 4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士（見習い）。