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『このたびは』 えすとえむ 【日刊マンガガイド】

2014/09/24


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新装版『このたびは』
えすとえむ 祥伝社 \680+税
(2014年9月8日発売)


2010年に刊行された短編集の新装版となる。当時はBLがおもな活動の場であったえすとえむが、初めて女性誌「フィール・ヤング」で掲載した読み切り作品群を単行本化したものだ。
(ちなみに『このたびは』では収録されなかった短編「94円」は、のちに連載化され「このマンガがすごい!2012」オンナ編3位を獲得した『うどんの女』となった)

表題作『このたびは』で妻の祖母の葬儀へ向かう夫が描かれるように、いわゆる冠婚葬祭、または家族内での事件といった人生の節目となるできごとに臨んで起きる、心の動きや人間模様を、端正な絵柄でバラエティ豊かに描きだしている。
『ふつつかものですが』はメンクイの32歳女性が、顔がトリプルAの34歳オクテ男性と見合いし、押しまくってたどりついた結婚式での一幕。
「はれ」では遠距離恋愛になった恋人の地元の祭りに誘われた女性が、彼を育てた祖父母と語らう。
「K」は疎遠だった父親が倒れた折に、娘が偶然発見したあるものについて。
「ススキ」は奔放な妹が未婚で妊娠を告げ、姉とともに思い出の野原へ行くが……。
双子のうちひとりがばっさり髪を切って成人式に臨む『凛』は短いながら情感にあふれる。
「妹のこと」は、この新装版で新規収録された作品で、『ススキ』の後日譚となり、妹の出産にまつわるエピソードになる。

「このたびは」で居心地の悪さを感じる主人公はもちろん、理想を叶えたのにマリッジブルーのような感覚にとらわれた「ふつつかものですが」のヒロインのように、扱われる出来事は、多かれ少なかれ「めんどうなこと」ではある。
しかし、普段「個」として生きていると気づかない、家族や親戚、あるいは故郷の空気など、自身や愛する人と地続きになっているルーツを受け入れる場面でもある。個人主義や効率化が進んだ現在でも、儀式的なものが廃れないのは、その状況でしか覗けない人生の深淵があるからかもしれない……。
里帰りのおともにしたい一冊だ。



<文・和智永 妙>
ライターたまに編集。『このマンガがすごい!』以外に、「マンガナビ」公認ナビゲーター、ほかアニメ記事など書いています。

単行本情報

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