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『カオスノート』 吾妻ひでお 【日刊マンガガイド】

2014/09/26


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『カオスノート』
吾妻ひでお イースト・プレス \1,200+税
(2014年9月9日発売)


なんなんだ、この力の抜け具合は!? 

大きな反響を呼んだ『失踪日記』『アル中病棟』から、意外なハイペースで刊行された吾妻ひでおの最新作は、とめどないイメージの奔流する、日記形式のショートナンセンスギャグ集。

前2作は「ほぼ実話」であり、自身のヘヴィな過去と向き合うというシリアスな作業が要求された反動もあるのだろう。ここに広がるのは妄想世界を自由に飛び回る、実存なきイメージ。パロディや風刺といった意味性から解放された、純然たるナンセンスの箱庭世界だ。
「ナンセンス=意味を持たないこと」に過剰な意味を持たせたものも少なくないなか、このいっさいの意味の欠如した世界。その力みのなさは、もはや仙人レベル。

「楽しんで書きました」という著者の言葉もさもありなんだが、我々読者も凝り固まった脳がユルユルと解きほぐされてゆくようで、その心地良さに恍惚としつつ、唐突に現れるイメージの奇天烈さと美しさにフッと持っていかれそうになる。
作為か無作為か、『失踪日記』『アル中病棟』のモチーフがメタ的に使われた箇所などは、著者の狂気の続きのように思えてギョッとしたり。崖、漂流、旅、病院、そして美少女……など、繰り返し登場するモチーフも愉快かつ不穏。

水と思って飲んだら実はお酒だった、みたいな笑えない比喩をつい用いたくなるほど、雑味のない口当たりで、スーッと読んだ後にじわじわと「効いて」くる、取り扱い注意の一冊だ。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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