『明日泥棒』第1巻
外薗昌也(作) 別天荒人(画) 集英社 \600+税

いつどんな盗難が起こるかわからないということで、10月7日（トー・ナン）は、日本損害保険協会が啓発のために定めた「盗難防止の日」。金銭から個人情報まで、盗まれたら困るものはたくさんあるが、一方で、盗まれたい、盗んでみたいと思ってしまうものもある。
『明日泥棒』で盗まれるのは、ずばりタイトルどおり、主人公とこの世界の“明日”=未来！　そして主人公が盗むのは、思い出の女性の“明日”だ。

忙しい仕事に息をつまらせている、システムエンジニアの宮迫享一。そんな彼の心を占めるのは、9年前に別れた彼女・天堂明日の存在だ。
エキセントリックな明日についていけず、自分から別れを告げたはずの享一も、いまはそんな明日を愛おしさとともに思い出してばかりだ。

そんなある日、突然、東京上空に謎の巨大飛行物体が出現する。
人々が大混乱に陥るなか、飛行物体から亨一の前にひとりの女性が出現する。
「世界を変えにきたよ!!」
それはなんと、9年前の姿のままの明日。享一は思わず明日を連れ去って同居を始めるが、彼女には人間離れしたパワーがあって、また彼女を追い狙う存在も……。
さらに享一は、大人の女性となった現在の明日とも再会するが、そこに3人目の明日も現れて……!?

平凡な日常を盗まれてしまうことになる亨一だが、ハチャメチャながらキュートな明日（メイド喫茶で働いてみたりも）との生活は、心躍る。亨一が盗まれ、盗んだものの先に何が待っているのかは、全4巻を読み切ってのお楽しみだ。
物を盗まれるのはさておいて、気持ちを盗まれて誰かに夢中になったり、心を奪われて何かにはまっていくのは、それはそれで楽しいこと。そんな気持ちにさせてくれる作品である。

＜文・渡辺水央＞
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編／伝説の最期編』パンフも手掛けています。