日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『銀の匙 Silver Spoon』

『銀の匙 Silver Spoon』 第14巻
荒川弘 小学館 ￥429+税
（2017年8月18日発売）

大蝦夷農業高校（通称・エゾノー）3年生の八軒勇吾が、起業した会社の事業として、ばんえい競馬場にてピザ販売会を行う日がきた。

学内イベントではなく、アウェイでの挑戦だ。
読んでいる側としては、八軒たちが頭と体を死ぬほど稼働させて、このピザをつくっている過程を知っているので、大成功をおさめる展開を期待したいところだが、ビジネスというものは、なかなかシビアだ。だからこそ、おもしろくもある。

もうひとつ大きなトピックは、受験と合否発表を迎えた御影アキへの、八軒の恋心に決着がつくことだ。
馬術部の仲間というだけでなく、アキの受験勉強を八軒が支えて絆を深め、お互い憎からず思っているはず……が、リア充への道はなぜか遠い。しかし、この「生殺し感」こそが八軒にふさわしいのも、また事実である（ヒドい！）。

農作物の規格外品など、「捨てられたもの」に価値を見い出すことが八軒のスタンスであった。しかし、社長である大川から、八軒自身が「捨ててきたもの」に、やはり価値があるのでは？との提示がされる。
たしかに八軒はそれに向きあうのを避けてきた。だが、もう入学時の繊細すぎる彼ではない。
一方で、実家の離農により、高校を辞めた同級生、駒場一郎の動向も気になる。

進路が決まっていく高3の1月、つまりエゾノーの高校生活はあと少し！　卒業へ向かっていくさびしさに思わず涙が……？
いや、やっぱり笑えるシーンのほうが多い。農業に関わる人々の剛胆ぶりは、プライスレス！

＜文･和智永妙＞
「このマンガがすごい！」本誌のほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集。とある学生街に在住し、いろいろと画策（だけ）しつつ、男児育てに追われる日々です。