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『グウェンプール:こっちの世界にオジャマしま~す』 クリス・ヘイスティング(作) グリヒル、ダニーロ・ベイルース(画) 御代しおり(訳) 【日刊マンガガイド】

2017/12/25


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『グウェンプール:こっちの世界にオジャマしま~す』



『グウェンプール:こっちの世界にオジャマしま~す』
クリス・ヘイスティング(作) グリヒル、ダニーロ・ベイルース(画) 御代しおり(訳)
ヴィレッジブックス ¥2,400+税
(2017年10月27日発売)


グウェンプール。
この見慣れないヒロインは、数十年単位で活躍するベテランヒーローが数えきれないほど存在しているアメコミ界に最近あらわれた新人である。彼女のスーパーパワーは、勇気、そして「秘密を知っている」こと。
彼女の魅力であり、またヒーローとしての強みでもあるこの2つのほかは、ほぼ何もないのだ。

スーパーヒーローたちにとって、その素顔は大きな弱点のひとつである。
グウェンプールが「知っている」のは、ヒーローたちの素顔のような、アメコミ読者なら多くの人が知っているが、当然ながら彼らが活躍する世界では敵に知られてはならない秘密である。

グウェンプールは、われわれ読者がいる次元(によく似た次元)から、ヒーローたちのいる次元へと移動してしまったために、ヒーローやその敵たちの秘密を最初から知っている。彼女は自分がいる次元をコミックのなかの次元だと知ってしまっているのだ。
彼女は、自分の命の危険もまったく考慮せずに行動する。銃も格闘技もてんでからっきしなのに、どんな敵に対してもかなり能天気に立ち向かっていく。

デッドプールやスパイダーマンのような饒舌系のヒーローではあるのだけれど、連載が進むにつれて徐々に「もとの次元から移動してきてしまった」というさびしさがにじんでくるあたりが読みどころだろう。

ちょっと複雑になるが解説しておくと、彼女は、もともとは「スパイダーマンの恋人グウェンがパラレルワールドで生き延びて、自身がスパイダーグウェンになるというスピンオフ」の人気を受けて展開された、いろんなヒーローがグウェンになるという企画の一環で「デッドプールがグウェンになる」という一枚絵(カバーアート)がまた人気を集めて連載化されたキャラクターである。
スピンオフのスピンオフのスピンオフというべきか、メタのメタのメタ、パラレルのパラレルのパラレルとでもいうべき存在。
デッドプールも、コミックのなかから読者に話しかけるという型破りなキャラクターだったが、本書付録の解説(わかりやすい!)にも書かれているとおり「ネタ元のデッドプールと差別化するために、コミックの世界から“第四の壁”を通してこちらを見るのではなく、こちらの世界から第四の壁を抜けてコミックの世界に飛びこんだという基本設定が与えられた」わけである。
こう書いてきてしまうと、複雑な設定を理解してるマニアにしか楽しめない作品なのかと思われるかもしれないが、デッドプールがよい例であるように、本作も内容はいたっておバカなバトルアクション。
複雑怪奇なキャラクター設定は、彼女がテキトーに、自由自在に暴れまわるために制作側がほどこした周到な(?)下ごしらえにすぎない。
読者はただ単に彼女の活躍を楽しめばいい。

先ほども触れたように、本作を読み進むにつれてグウェンプールがもとの次元からアメコミの世界に転移してしまったことが少しせつなく描かれたりもする。
連載第1弾エピソードからしばらくは、単なる「女版デッドプール」という感じ(と書いても語弊があるが)のひたすらに粗野なキャラクターとして描かれるのだが、ハワードザダックというもうひとり(1羽)の次元転移者とタッグを組んでいることには注目したい。
グウェンプール初登場エピソードは、2017年2月に邦訳が刊行された『ハワード・ザ・ダック:アヒルの探偵物語』の時間軸に連なっている。
ハワードは、鳥類がサルのかわりに知的生命体として進化し文明を築いたパラレルワールドから転移してきてしまった次元闖入者であり、それが少しだけ時代遅れなハードボイルド風の言動とあいまって絶妙な味わいを醸しだしていた。
ハワードは、普段から「毛無しサル(ヒト)」の世界になじめないことを嘆き、ボヤいており、それが時代の変化に取り残されつつあることを自覚する「古い男」のテンプレと重なるわけだ。
グウェンプールがまとう「コミックの世界のことはなんでも知っているというある種の全能感」とハワードのこの疎外感とは鮮烈な対照をなす。

本作の表紙は日本人のグリヒルによるもので、このハワードが登場するエピソードの作画はダニーロ・ベイルース、そのあと途中から本編も表紙と同じグリヒルが手がけている。
なかなかにてんこ盛りな内容なので、本編を読み終わったあと、表紙を見直してみて、この「カワイイ」なかに本編の要素が詰めこまれているのを確認してみてほしい。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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