このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

『男坂』第4巻 車田正美 【日刊マンガガイド】

2014/10/21


otokozaka_s04s

『男坂』第4巻
車田正美 集英社 \400+税
(2014年10月3日発売)


かつて「週刊少年ジャンプ」で連載していた、車田正美の伝説的作品『男坂』が帰ってきた!

『リングにかけろ』『風魔の小次郎』の大ヒットで、「ジャンプ」の看板作家になっていた車田が「こいつをかきたいために、漫画屋になった」(ジャンプコミックス1巻著者近影コメント)と大々的に喧伝して1984年にスタートしたのが、本作『男坂』である。
構想10年、しかし作者の思い入れとは裏腹に、わずか半年で連載終了となってしまう。これが車田にとって初の打ち切りとなった。
「ガキの頃から書きたかった作品」(前掲)というだけあって、よほど無念だったのか、最終回の見開きページには筆文字で「未完」とデカデカと大書されていた。これが当時の「ジャンプ」読者に絶大なインパクトを与え、「未完」は語り草となり、そして『男坂』は「打ち切りマンガの代名詞的な存在」へと祭り上げられていった。

ところが、である。
そして2014年……、なんとwebサイト「週プレNEWS」で『男坂』が再開されたのである。リメイクや「2」や外伝ではなく、打ち切り当時の状況からの「続き」が描かれはじめたのだ。ちょうど『キン肉マン』の続編のように。
そして再開後の『男坂』の最初の単行本が今回紹介する4巻であり、これにあわせて既刊1~3巻も復刊された。

文庫版『男坂』下巻のあとがきで、車田は「『男坂』に対する作家としてのオレの決着(けじめ)は、まだついていない」と語っている。
そう、再開『男坂』は画業40年目を迎えた車田の、30年前の作品に対する「決着(けじめ)」なのだ。

さて、『男坂』の内容だが、いわゆる番長マンガである。
ケンカで倒した敵は番長の子分になり、やがてグループ同士の抗争へと発展していく。通常の番長マンガなら、最終目標は「日本一」あたりが関の山だが、この『男坂』は風呂敷の広げかたが違う。世界中のジュニア世代のボス(番長)が集まるジュニア・ワールド・コネクション(JWC)が開催され、国を代表するボスたちが勢揃いするのだ。いわば「番長版ワールドカップ」のようなものである。
お前ら、車田先生のスケールなめんなよ。このJWCの会議で「ボス不在」と目された東日本は、世界中の番長たちから侵略の目を向けられる。しかし東日本には、「この地上でただひとり生き残っていた最後の硬派」がいた。それが主人公・菊川仁義(中学生)である。
仁義は外敵から日本を守るため、東日本の不良をケンカで従えていく。これがストーリーの基本線だ。そして“北の帝王”神威剣に会いに行こうとするところで、連載は打ち切りとなった。そのため単行本4巻は、仁義が北海道に乗り込むところからスタートする。

『男坂』を理解するうえで忘れてはならないのが、本宮ひろ志『男一匹ガキ大将』だ。
『男一匹ガキ大将』は、千葉の漁村(『男坂』と同じ設定)に住む不良学生が、悪ガキたちをケンカでねじ伏せて、やがて日本中の不良を従える「総番」へと成りあがっていく物語。最終的にはタンカー群を率いて中東まで原油を買いつけに行き、アラブに爆弾を落としたりするが、まあそれはご愛敬。
敵を倒す→仲間になる→新しい敵が現れる→倒して仲間にする……という対決主義(トーナメントバトル方式)を「週刊少年ジャンプ」で最初に提示した番長マンガであり、車田正美はこの作品に感化されて漫画家を志すようになったと昔から公言している。

番長マンガはバトルものでありながら、その勝敗のつけ方に特異性がある。というのも、スポーツや格闘技と異なり、ケンカにはルールが存在しない。人数や道具をそろえてボコボコにすれば、それで勝てるか? さにあらず。相手が敗北を認めないかぎり、決着はつかないのだ。まさに「心が折れなければ負けではない」論理である。
したがって勝敗の行方は、戦闘力の優劣ではなく、いかに相手を屈服させるかがキーポイントとなる。つまり「男気くらべ」こそが、番長マンガにおけるバトルの本質といえるだろう。そして、敗者は男気くらべで負け(=相手に屈服する)「こいつには敵わない」と思うからこそ、「男が男に惚れた」状態になり、勝者の子分になりうるのだ。ここに「カリスマ誕生の瞬間」が描かれる。
勝ちかたにこそ、主人公の魅力が凝縮しているのだ。

ページを開けばひたすらケンカに明け暮れているだけのように見える番長マンガは、じつはその本質において、個人の暴力の限界性を暗示している。
『男一匹』でも最初期の段階で、主人公の口から「けんかだけやったら犬畜生でもやるわい」「むかしは暴力で天下をとれたが…… きょうびは!! そんなもんじゃ!! とれんのじゃい!!」と明言されている。そのことをふまえて『男坂』を読み返してみれば、黒田闘吉との戦いがタイマンのケンカではなく、あのような決着のしかたになったことも腑に落ちるはずだ。その意味では、『男坂』は本質においても、『男一匹』以来の番長マンガの本寸法を継承しているといえる。
そして打ち切り前(1~3巻)と再開後(4巻以降)では、男気くらべの描きかたが異なるかどうかにも注目したい。絵柄の変化だけでなく、このような箇所にも「30年の重み」を感じることができるはずだ。

また、「他人を屈服させる力(=男気くらべに勝つ力)」はグループを束ねる力(=権力)とニアリーイコールであるため、番長マンガはいきおい政治的寓話としての側面も持つ。JWC加盟国は、1984年当時における西側の反共国ばかりだし、そのなかで日本は「指導者不在」を指摘され、みかじめ料を出せば「守ってやる」と提案される。2014年現在の読者からすれば、まるで予知能力者のように、作品世界の未来を予見できる。
この作品世界がわれわれの知る世界と地続きのものとなるか、あるいはタイムリープ作品(ケン・グリムウッドの小説『リプレイ』など)のように、仁義の活躍によって「ありえたはずの、もうひとつの世界」を現出せしめるか。これから本作を見守っていくうえで、この点も気になる。

この坂をのぼった先に、どのような景色が広がっているのか。我々は、まだ誰も知らない。



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

単行本情報

  • 『男坂』第4巻 Amazonで購入
  • 『男坂』第1巻 Amazonで購入
  • 『風魔の小次郎』第1巻 Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング