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『リアル』第14巻 井上雄彦 【日刊マンガガイド】

2015/01/06


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『リアル』14巻
井上雄彦 集英社 \600+税
(2014年12月19日発売)


車椅子バスケットボールを題材に、戸川清春、野宮朋美、高橋久信という3人の少年が、もがき苦しみながらも前に進む様を描く青春譚。
1年に1冊というペースでの新刊リリースなので、毎年首を長くして待ち望んでいるファンも多いだろう。

高橋と同じリハビリ施設の入所者で、人気悪役レスラーのスコーピオン白鳥を主役に据えたド迫力かつ感動的な前巻から一転、戸川、野宮、高橋、それぞれの現況にカメラはシフトする。
下半身不随となった現実をなかなか受け入れられずにいた高橋だったが、白鳥らとの交流を経て、車いすバスケの名門チーム・調布ドリームの門を叩くことを決意する。
彼女の本城ふみか(ギャルな見た目とは裏腹に、心根の優しい女の子)に長髪をバッサリやってもらい、野宮とバチバチやっていた“あのころの高橋”が復活する気配だ。

一方、戸川が所属する東京タイガースは念願の初タイトルを獲得。マネージャーの安積久美が海外留学のためにチームを去ったことで空気が悪くなりつつあったが、予想外の大目標ができたことで再びメンバーの気持ちがひとつになる。
そんななか、戸川のもとにある人物からメールが。戸川の精神状態が最悪なころに出会い、新たな光を示してくれた山内“ヤマ”仁史だ。

ヤマは不治の病・筋ジストロフィー患者。「20歳くらいで僕は死ぬ」と話していたが、それでも精一杯日々を生き、かつて憧れの陸上選手だった戸川を車いすバスケの世界へ誘った男である。
しかし病が進行してくると、あれだけ強かったはずの精神が追い込まれていき、戸川に対しても諦めの言葉を口にするようになっていた。

「クソ…セックスしたい」。
読者にとって衝撃のエピソードだった28話(第5巻収録)から約10年。久々の登場となったヤマは、八王子のアパートの一室で寝たきりになっていた。
訪ねるのを臆していた戸川だったが、まだ話ができるヤマの声を聴いてホッとする。それどころかヤマは毅然として、しっかりと前を向いていたのだ。

井上雄彦はすべてのキャラクターを見捨てない。再生のドラマを描きつくす気構えだ。
ヤマは久し振りにタイガースの練習場に現れ「できやしないという連中を黙らせろ」とチームを鼓舞する。
いよいよ高橋のドリームスと戸川のタイガースが交錯する日が近づいてきた。野宮だって、負けていられない!



<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」

単行本情報

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