『繕い裁つ人』第6巻
池辺葵　講談社　\ 600+税
（2015年1月23日発売）

祖母の志を受け継ぎ、着る人を幸せにし、その人生に添い遂げる洋服をつくり続ける「南洋裁店」の店主・市江と、彼女の服を愛してやまない百貨店企画部の藤井を軸に、洋服にまつわる人々の思いを描いた『縫い裁つ人』。
たおやかだが芯の通った、市江のキャラクター。独特の静けさに包まれた世界で、ぽとんと落ちたインクのように誰かの心にそっと滲み、色づいてゆく思い。
ささやかだが豊かな意識の交歓がなんともいえず心地よく、ずっと読み続けたい作品だっただけに、複雑な気持ちで手にした最終巻だが、やはりというか、市江も藤井も迷いながらも決して自身を見失うことなく、それでいて、お互いを大切に思う気持ちが静かにあふれるラストシーンには、さすが池辺葵！　と唸らされる。

市江が洋服に込めた思い、それを着た人々の反応には、「装うこと」の意味を改めて考えさせられたり（「これを着てたらどんなゆううつな日もふんばれそう」な服、私もオーダーしてみたい！）。
オーダーメイドの洋服のように、読み手の人生にそっと寄り添ってくれる至福の1冊。

映画版もついに公開！　ということで、フェアを展開中の書店も多数。
これをきっかけに『どぶがわ』や『サウダーデ』、『かごめかごめ』といった池辺作品がひとりでも多くの人に読まれることを願ってやみません。

＜文・井口啓子＞
ライター。月刊「ミーツリージョナル」 （京阪神エルマガジン社）にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」（DU BOOKS）寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter：@superpop69