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『わたしは真夜中』第2巻 糸井のぞ 【日刊マンガガイド】

2015/02/11


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『わたしは真夜中』第2巻
糸井のぞ 幻冬舎 \630+税
(2015年1月24日発売)


12歳年下の青年に言い寄られて、揺れる想いを描く、糸井のぞ『わたしは真夜中』。
今はやりの“年の差恋愛もの”ということになるが、本作は他作品とは一線を画す。誤解を恐れずに言ってしまえば、ほかの年の差恋愛ものにあるような心地いいときめきは皆無だ。

ときめきはあっても、それは胸をチクリと痛ませて、むしろヒロインに内省を促すようなもの。
だれかに惹かれているという事実に対して、自己嫌悪せざるをえないような、そんな面倒で臆病で厄介な恋愛。しかし大人の恋愛には、そうしたわずらわしさがつきまとうのが本当だろう。
しかもヒロインの夜野とばりは、31歳でバツイチ・子持ち。そしてそれ以前に、人の気持ちも自分の気持ちも推し量ることが苦手な女性なのだ。

図書館司書のとばりは、中学時代からのつきあいである日暮久志と結婚するが、久志の浮気を機に離婚。2人の間にできた息子・聖とは、現在離れて暮らしている。
そんなある日、図書館の常連客で、親しい間柄となっていた19歳の青年・池端太一から、ある頼みごとをされる。それは、一緒に寝てほしいというもの。不眠症だった太一は、以前、とばりの隣で熟睡できたことから、彼女の側でもう一度眠りたいと考えていたのだ。
なかば強引に 添い寝をさせられて、告白もされるとばり。太一に惹かれていく自分もいるが……。

女性として真夜中にいるだけでなく、ひとりに逃げてしまうところがあるとばり。離婚も久志の浮気がきっかけではあるにしても、すべての原因は自分にあることをとばりは自覚している。
とばりはつまるところ、向き合うことから逃げたのだ。
そんなとばりの弱さや狡さ、裏返しての無意識のしたたかさも、『わたしは真夜中』は描く。

じつはとばりを誰より一番よくわかっている久志は言う。
「そうしてると中学ん時と全然変わんねーな その『察して』っていう目もな」
「自分の気持ちをはっきりさせるのが面倒なんだろ」
読者によっては、とばりとは似た者同士で、つかず離れずの優しさと厳しさを持つ久志も魅力的に映るかもしれない。その久志もまたさまざまな複雑な想いを抱く。

「不器用な大人の恋愛」という言いまわしがあるが、本作は「不器用な大人の生き様」をリアルにも愛おしく描く。
そもそも大人とは、小器用に立ちまわれなくなった存在にすぎなくて、不器用そのものだ。生活においても精神においても、自分のスタイルはいやがおうにも確立されてしまっている。孤独であることの心地よさも痛さも知ってしまっている。
そのなかで訪れる恋愛。それがどんな変化をもたらしていくことになるのか。等身大の大人の、それだけに胸に沁みる恋愛がここにはある。

物語の行く先はまだ見えないが、一日を人生にたとえるなら、成長して屈託も覚え、真夜中を迎えた大人が、再び重い殻や暗い闇から抜け出して、朝を迎えることにもなぞらえられるかもしれない。
不器用な大人たちがそんな自分を自覚して、その中で太陽を前に一歩を踏み出していく。とばりと太一、周囲の人たちにどんな朝が訪れるのか注目だ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。

単行本情報

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