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『すくってごらん』第3巻 大谷紀子 【日刊マンガガイド】

2015/02/28


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『すくってごらん』第3巻
大谷紀子 講談社 \429+税
(2015年2月13日発売)


「金魚すくい」というマニアックなネタを、金魚を名産とする実在の土地「奈良県大和郡山市」を舞台に風情たっぷりに描いた本作、堂々の完結である。

エリート銀行マンだったが左遷されてしまった主人公の「香芝」は、町で一番の美人「吉乃」(注:名前はいずれも奈良県にある市や村のもの)にひかれ、金魚すくいの道に足をふみいれる。
みごとな表紙絵が期待させる美麗な描きこみは本編のほうにも遺憾なく発揮されており、「たかが金魚すくい」と思ってあなどると驚かされるだろう。
金魚すくいをとおして、心をとざしていた香芝が周囲と打ちとけていく様子が、華やかでどこかノスタルジックに描かれている。

描写の美しさだけが本作の魅力ではない。
たとえば「浅いところの小赤を狙うときは角度をつけず 近くから入水して 深いところの場合は角度をつけて遠くから入水する」「水中では曲率を維持して反転時の移動角度に注意する」といった、まじめに金魚すくいのことを考えないとまず出てこないような表現も登場。本作は、決して金魚すくいをおもしろおかしく描いているだけの作品ではない。

また、まるで一般のスポーツマンガのような側面もある。
香芝が決勝を観戦しているときのモノローグはこうだ。
「最後まで諦めない 諦めるなんて言葉 知らない きっと決勝(ここ)に残った人 全員 「あと1匹」「あと1匹」って思っている すべてがゼロになる そのときまで」
……まさか金魚すくいを描いたマンガを読んで、胸が熱くなるなんてことがあるとは……!

なお、さきほど引用した「小赤を狙うときは……」の「小赤」だが、金魚すくいですくわれる金魚のことだ。
単体で売られる金魚としては、病気があったり身体が弱かったり、いわば二流品と見なされた金魚たちが、金魚すくいにまわされる。
香芝はそれを知り、左遷された自分の身のうえと小赤とを重ねて、金魚を慈しむようなすくい方をするようになる。こじつけのように思われるかもしれないが、これが物語全体に深味を与えていることは間違いない。

ふだん自分が疎外されていると思っている人にはぜひ読んでもらいたい良作だ。


気になる『すくってごらん』大谷紀子先生のインタビューはコチラ


<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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