『帰ってきたサチコさん』
朔 ユキ蔵 小学館 \552+税
（2015年6月10日発売）

『ハクバノ王子サマ』、『お慕い申し上げます』などで知られる朔ユキ蔵が、「月刊フラワーズ」に発表した短編群。

表題作は、現代から突然1932年にタイムスリップしたサチコが、10年の時を経て現代に帰ってきた場面から始まる。
ただし、現代ではサチコが失踪してからたった10カ月しか経っていないとわかるのだが……。

見ず知らずの人ばかりの知らない世界に放りこまれた10年の間に、サチコは“そっちの世界”の住人になっていた。さる男性と出会い、結婚をして子どもをもうけている。
しかし、1942年、第二次世界大戦のさなか、サチコは現代に帰る手がかりを見つけるや、みずからの意志でかつていた世界に戻ることを選び……。

本書に収められた5編は、いずれも別れと出会いをモチーフとした物語。いずれも短いなかに、人生の機微を感じさせる深いおもむきがある。
どんなにうまく舵を取ろうとしたって人生は自分の思いどおりにはいかない。この事実は決してマイナスではなく、いいかえれば、この世は想像の範疇にはおさまりきらない可能性を秘めている。
つらいことがらも、悲しみや苦しみという一面だけを持っているのではない。

登場人物たちの流すたくさんの涙に感情移入しながらも、希望を信じずにいられないすがすがしい読後感の一冊。

＜文・粟生こずえ＞
雑食系編集者＆ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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