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『千之ナイフ選集 少女曼荼羅』 千之ナイフ 【日刊マンガガイド】

2015/08/10


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『千之ナイフ選集 少女曼陀羅』
千之ナイフ 久保書店 ¥1,185+税
(2015年7月10日発売)


美少女マンガの第一人者である、千之ナイフ。
いっぽうで、ホラーからSF、パロディまで幅広く作品を発表しているが、本作『千之ナイフ選集 少女曼荼羅』は氏の醍醐味とも言える少女と人形をテーマとした作品集だ。
伝説の美少女コミック誌「レモンピープル」掲載の「儀式」、「鏡」といった80年代の初期作品のほか、90年代・00年代の短編群、最新描きおろしとなる「Automata」も収められている。

作品は読んだことがなくても、硬質なのに艶めかしさのある氏の画は知っているという人は多いはずだ。
唯一無二のタッチ。その画だけで十二分に引きつけるのが千之ナイフだが、本作収録作を読めば、その作品性にも魅せられるはずだ。妖しく美しく、あるときは至福の吉夢のような、あるときはいまわしい悪夢のような物語がそこに展開されていく。

そして本作のひとつのポイントとなるのが、肉体だ。
当たり前ながら、少女は少女の肉体を持っているからこそ少女たりえるのであって、人形は生身の肉体を持っていないから人形たりえる。肉体こそが、その持ち主の性と生、運命を決める。
収録作「STREET OF ALICE」と「蔵の中の少女」は、それこそそれぞれ著者の見た悪夢と快夢が元になっているという作品だが、肉体をめぐる命運を描いた作品でもある。
戯具にされる美女の肉体を選び取ってしまった男(「~ALICE」)に、人形であることを選び取ろうとする女性。哲学的でさえある。

少女の時間と肉体は、やがては終わる。前出「儀式」や「鏡」はそんなことが裏テーマにもなっているが、千之ナイフが描く少女たちとその作品群は、決して色あせない。
美しさと凄味を保ったまま、大きく見開かれた目で読み手を誘うべく待ち続けている。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

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