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『騎士サーの姫』 犬飼ビーノ 【日刊マンガガイド】

2015/09/05


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『騎士サーの姫』
犬飼ビーノ イースト・プレス ¥925+税
(2015年8月7日発売)


「オタサーの姫」という言いまわしがある。
なんらかのマニアックな分野のサークル活動において、男所帯のなかで紅一点の女性メンバーを指す言葉だ。
お姫様のごとくチヤホヤされるポジションを自覚してうまいこと立ちまわり、色恋沙汰で男性メンバーの人間関係をひっかきまわして部内を破綻させてしまう、いわゆる「サークルクラッシャー」ともよく紐づけられる。
この「姫」という比喩をとっかかりにぐるりとひっくり返し、本当の騎士たちに囲まれた本当のお姫様を描いたのが本作、『騎士サーの姫』である。

舞台は中世西洋風のファンタジー世界。
とある国のとあるお城につとめる騎士たちが自らを鍛える内々の集まりとして「騎士サークル」を結成するところから物語は幕を開ける。
そこへふとした拍子にお城のプリンセスまで参加してきて、みんなで和気あいあいと特訓や冒険にいそしむコメディ話が主に描かれている。

騎士たちは色恋がらみではなく心底からの忠義心で姫を囲んで守ろうとする。
お姫様のほうも打算や腹黒さはなく、根っから純真で親しみやすい人柄と気品をそなえている。
つまり「オタサーの姫」と構図を同じくしながら、その性質は正反対。
そこが本作最大のおもしろみなのだ。

もともとは作者のビーノ氏がpixivにアップした創作イラストおよび掌編マンガに端を発しており、そこからイースト・プレス社が運営するweb文芸サイト「マトグロッソ」でwebマンガ版第1~3話が公開、さらに描き下ろしで第4~10話を加えたのが今回の単行本となっている。

描き下ろしエピソードでは騎士たち個々の生い立ちや性格の掘り下げ、また人にも魔物にも優しいお姫様の格調高さがより深まっており、シチュエーションの出オチ一発にとどまらない「イイ話を読んだな~!」という充足感が得られる。

未読の方は、単行本でまとめて一気読みがおすすめだ。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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