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『珈琲店タレーランの事件簿』第2巻 岡崎琢磨(作) 峠比呂(画) 【日刊マンガガイド】

2015/09/25


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは『珈琲店タレーランの事件簿』。


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『珈琲店タレーランの事件簿』第2巻
岡崎琢磨(作) 峠比呂(画) 宝島社 ¥690+税
(2015年9月17日発売)


女性バリスタ・切間美星(きりま・みほし)と、彼女の淹れるコーヒーに魅了された青年・アオヤマが数々の謎に挑む。
アオヤマの話を聞いた美星は、手回し式のコーヒーミルで「コリコリコリ」と珈琲豆を挽きながら推理をし、謎が解けると微笑みながら告げる。
「その謎、たいへんよく挽けました」

シリーズを代表する決めゼリフ。この瞬間、すべての点は線となり、謎は解き明かされるのだ!

シリーズを代表する決めゼリフ。この瞬間、すべての点は線となり、謎は解き明かされるのだ!


シリーズ累計165万部を突破した『珈琲店タレーランの事件簿』がマンガ化された。それは、それで喜ばしいことなのだが……。

「原作『タレーラン』の第1巻については、小説ならではの、小説にしかできないミステリを書こうと思っていたんです。だから最初コミックスになると聞いたときは、正直できるのかなって思った部分もありました」

これは「このマンガがすごい!WEB」のインタビューでの原作者・岡崎琢磨の言葉だが、同様の危惧の念を抱いた原作読者も多かったことだろう。
ただし、映像化困難と言われていた乾くるみ『イニシエーション・ラブ』を堤幸彦が工夫を凝らした構成/演出により映画化したのは記憶に新しいところ。
それと同様に映像化困難なはずの「小説にしかできないミステリ」という趣向を崩さず、マンガ化を行ったのが本書なのである。

さて、峠比呂の工夫について言及する前に、原作とコミックス版の順番の異同を説明しておきたい。これについては、第1巻の「ロングレビュー」で北原尚彦も指摘していたが、原作(『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』)のエピソードが出そろったところで整理したのが、以下の表である。
太字部分が、コミックスにおいて変更になったところだ。

■原作
 1.「事件は二度目の来店で」
 2.「ビタースウィート・ブラック」
 3.「乳白色にハートを秘める」
 4.「盤上チェイス」
 5.「past,present,f*****?」
 6.「Animals in the closed room」
 7.「また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」

■コミックス(第1巻)
 1.「事件は二度目の来店で」
 2.「ビタースウィート・ブラック」
 3.「盤上チェイス」
 4.「past,present,f*****?」
■コミックス(第2巻)
 5.「乳白色にハートを秘める」
 6.「流れ星の長い旅」※マンガオリジナル
 7.「Animals in the closed room」
 8.「また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」

原作では“キーマン”胡内波和(こない・なみかず)が登場するエピソードを「past,present,f*****?」「Animals in the closed room」「また会えたなら~」と連ね、クライマックスに向けて盛り上げる構成をとっている。
いっぽう、コミックスでは、第1巻のラストに「past,present,f*****?」を配置し、胡内の不気味な存在感をもって第2巻への強烈な「引き」としている。

かつて美星を深く傷つけた胡内。その魔の手が再び迫る。

かつて美星を深く傷つけた胡内。その魔の手が再び迫る。


また、コミックスは各巻4話としているが、原作は全7話しかないことから、オリジナルの「流れ星の長い旅」を追加してバランスを取っている。
それぞれに発表形態にあわせて、物語を効果的に配置しているのがうかがわれる。

原作の全7話のなかでは「乳白色にハートを秘める」が、「小説にしかできないミステリ」の代表格といえようか。これはアオヤマがいじめを受けていると思われる金髪碧眼(でも、日本語は流暢)の小学生について美星に語るエピソードである。
「小説にしかできない」仕掛けに関しては、峠比呂がそれを踏まえた作画を行っているため、マンガ化しても原作にあった驚きが味わえる出来栄えになっている。
こういった原作者と漫画家の知恵のぶつかり合いも味わってほしいところである。

一方オリジナルストーリーの「流れ星の長い旅」は、喫茶「タレーラン」にて期間限定で供された金平糖にまつわる物語を美星がアオヤマに話すというもの。
買出しに出かけた美星は、三条のアーケードで季節はずれの夏服を着た少女に出会う。葉一葵(はいち・あおい)と名乗った少女は、母親の誕生日プレゼントに金平糖が欲しいと言い、人の良い美星はその買物に付き合うこととなる。

『タレーラン』では、アオヤマが視点人物となることが多いため、美星が語り手となる「流れ星の長い旅」は異色といえる作品である。アオヤマ視点では描かれない、美星の一面がうかがえる点も楽しい。
先に紹介したインタビューで岡崎琢磨は「この話は、小説では書けなかったと思うので、本当にコミカライズならではのお話だと思います」と述べているが、そう語りながらも小説家として静かに闘志を燃やしているのではないかと思う。コミカライズ→小説という通常とは異なる流れでの作品の誕生を期待したい(はなはだ勝手な期待であるのは承知のうえで)。

最後になるが、原作を読まれた方には、今回のマンガ化を機会に読み返すことをお勧めする。「真相」を知ったうえで読み返すと、初読時とはまったく異なる作品世界が見えてくるからだ。
筆者も本レビューを書くにあたり再読したのだが、原作15ページの「カフェにいれば、店員と客とで口を利くこともあるよ」というアオヤマのセリフにぶちあたると、脳内で描かれる映像が初めて読んだときとはまったく異なるものになる点に驚かされた次第である。

また、原作34ページには「人気の店というとイノダコーヒーや今出川通りのロックオン・カフェ」と、ぬけぬけと書かれていたりするのだ(何が「ぬけぬけと」なのかわからなかった原作読者は、読み返してみよう)。
再読すれば、初めてのときとはまた違ったサプライズに出会えるはずである。

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<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。ちなみに「ミステリマガジン」11月号のコミック評ではトミヤマユキコが『珈琲店タレーランの事件簿』を紹介しています。

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