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『AWAY -アウェイ-』第2巻 萩尾望都(著) 小松左京(案) 【日刊マンガガイド】

2015/10/05


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『AWAY -アウェイ-』


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『AWAY -アウェイ-』第2巻
萩尾望都 小学館 ¥545+税
(2015年9月10日発売)


萩尾望都が小松左京が1963年に発表した『お召し』を原案に描いた、本格SF作品。
萩尾望都×小松左京という顔合わせには、SFマニアでなくとも、たとえばコレが10年とか20年前に描かれたとしても興奮せずにいられないわけだが、折しもというか、3.11を経て、戦争法案と天災に揺れる現在の日本で、萩尾望都が『なのはな』に続き、これを描く……というところに、本作の真意とすごみがある。

ある日突然、18歳以上の大人たちが消えた世界で生きることになった子どもたち。
彼らは知恵を出しあい、力をあわせて次々に起こる問題に対応してゆくのだが、やがて、突如出現する新生児に託された手紙から、今いる「子どもの世界(AWAY)」とは別に「大人の世界(HOME)」が存在することを知り、18歳の誕生日を迎えて消えた仲間もうむこうの世界で生きていることを知る――。

世界を2つのパラレルワールドにわかち、人類の未来を子どもたちに託す――という設定は、楳図かずお『漂流教室』にも通じるもので。
信じがたい現実を素直に受け容れ、力を合わせて懸命に立ち向かってゆく子どもたちの姿には、心打たれずにいられない! それに対し、現実から目を背け、インターネットの情報に翻弄され、ヒステリックに騒ぎ立てるだけの大人の愚かしさといったら…。SEALDsのスピーチと安保法案の強行採決を思い浮かべつつ、「本当に安全なのはどちらの世界なのか――?」というコピーに考え込んでしまったのは、私だけではないだろう。

ネットにスマートフォン、山ガールまで、原作にはない現在の生活エッセンスを柔軟に組みこみながら、仮想世界の暮らしぶりをいきいきと描き出す萩尾望都の「現役」っぷりには、うならされるばかり。
本作のキモともいえる「世界の秘密」が明かされる、ラスト10数ページの迫力たるや。山上たつひこ『光る風』同様、読みながら自分の足下がぐにゃりと歪み、すべての事象が時空や虚実の皮膜を超えて一直線に繋がる感覚に、思わず鳥肌が立った。

ジュブナイルSFとしても秀逸。大人はもちろん、少年少女にも読んでほしい一冊だ。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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