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『椿と罪ほろぼしのドア』第1巻 長田亜弓 【日刊マンガガイド】

2015/10/10


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『椿と罪ほろぼしのドア』


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『椿と罪ほろぼしのドア』第1巻
長田亜弓 小学館 ¥552+税
(2015年9月11日発売)


そのルックスとクールな雰囲気で、女子から注目の的の男子高校生・椿。
しかし彼は周囲の人間との関わりを拒んでいて、愛情を注いでいるのは飼い猫の“しげ”だけ。

そのしげが老衰で息をひきとった夜、椿の目の前に突然現れたドアと、そこから現れた“シド”と名乗る魔法つかい。
椿の「しげを生き返らせてほしい」という涙ながらの願いを聞き入れ、愛猫を生き返らせたシド。彼は、ある使命を負い、人間の協力者を探しているという。これは願いの対価として、椿がファンタジーな世界に飛びこんでいく展開かなと思った瞬間、とんでもないひと言を椿が放つ「誰あんた? …なに?」……この人、愛猫の命の恩人、追い返そうとしてる!

そう、本作は魔法ファンタジーのように見せかけて、そのじつは反抗期の高校生男子とトボけた魔法つかいのコメディ。
さらにいえば、バディものでもありながら、5話までが収録された第1巻では、椿の強がりとシドの抜けっぷりで、協力=契約にさえ至っていないありさまで!?

著者は、次々繰り出す掛け合いのギャグで注目を集めた『のうけん』の長田亜弓。
かみ合わないやりとりにこそ、不思議とバディ感があるというおもしろさを見せてくれている。

いっぽうで、ただ笑わせるだけじゃない。笑いのなかで、ふと刺さる言葉や描写がいい意味でページをめくる手を止める。
シドの使命というのは、彼ら黒い魔法つかい一族のお姫様「黒の姫マリカ」を探し出すことにあるが、そのなかで出会う人々のエピソードもただのきれいごとじゃない。人間の心理や真理に則った深いもので、ファンタジーだからといって人間の現実から逃げていない。
だからこそ本作は、ファンタジーとしても厚みを持つ。

椿とシドがここからどんな物語を繰り広げていくのか。
「おとぎ話」という言葉が作中でも広告でもクローズアップされているが、なるほど、現実をベースにした、ほかにはちょっとない楽しい話という意味でも、そこに童話的な味わいや寓話的な深みがあるという意味でも、おとぎ話。

笑いたい人も、ファンタジーにひたりたい人も、ぜひ!



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が発売中。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

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