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『四季』 森博嗣(作) 猫目トーチカ(画) 【日刊マンガガイド】

2015/12/05


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『四季』


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『四季』
森博嗣(作) 猫目トーチカ(画) 講談社 ¥581+税
(2015年11月6日発売)


5歳で10ケタの掛け算と三乗根の暗算をこなし、11歳にしてマサチューセッツ工科大学の博士号を取得した天才少女・真賀田四季(まがた・しき)。情報工学を中心に様々な偉業をなしとげた彼女は、14歳の時、じつの両親を殺害し、世界によりいっそうの衝撃をもたらした。

本作『四季』は天才少女・真賀田四季を主人公とした、森博嗣原作の『四季』シリーズのコミカライズだが、同シリーズは『すべてがFになる』のスピンオフでもあるので、現在フジテレビ系「ノイタミナ」枠で放映中のアニメ『すべてがFになる』を鑑賞するうえでも押さえておきたい作品である。

と、唐突に「四季」シリーズやら『すべてがFになる』といった固有名詞を登場させてしまったので、まずはそちらから説明していこう。
『すべてがFになる』は、1996年に発表されたミステリィ作家・森博嗣のデビュー作(森は「mystery」を「ミステリィ」と表記する)。真賀田四季は、この作品の重要な登場人物のひとりである。そして、『すべてがFになる』は「S&M」シリーズの第一作でもある。
「S&M」シリーズとは、N大学工学部建築学科助教授(発表当時の呼称)・犀川創平(さいかわ・そうへい)が探偵役となり、同大学の学生である西之園萌絵とともに事件に挑むもので『すべてがFになる』から『有限と微小のパン』までの全10作品で完結している(シリーズ名は2人のイニシャルに由来)。

一方、「四季」シリーズとは、森が2003年から2004年にかけて発表したもので、『四季 春』『四季 夏』『四季 秋』『四季 冬』の全4冊からなる。このシリーズは、森作品において「S&M」シリーズと瀬在丸紅子が主役の「V」シリーズ(Vは瀬在丸紅子[Cezaimaru Venico]のイニシャルに由来)をつなぐ位置づけにあり、今回のマンガ化にあたっては、真賀田四季の幼少期を描いた『四季 春』と、両親殺害事件の背景を語った『四季 夏』を原作としている。

したがって、特に『四季 夏』などには、ほかのシリーズに関連した内容も盛りこまれているのだが、そうした部分はマンガ化にあたり猫目トーチカが巧みに切りわけ、四季の内面を語る部分や『すべてがFになる』に関連する部分などを抜きだして、本作だけでも楽しめるように、すっきりとまとめあげているのである。

猫目トーチカは、1982年生、神奈川県出身。2009年「傘が咲く」で第2回金のティアラ大賞銅賞を受賞してデビュー。今回が初連載となる新鋭である。マンガ化のコンペで、原作者の森博嗣が「まったく先入観なく、絵だけ」で選んだそうだが、絶妙な構成力を持つことも証明されたわけである(本作オリジナルのラストは、評価がわかれようが、筆者などは四季の違った側面が窺えるものとして評価している)。

ところで、本作に関して、多少ネタバラシめいたことをいえば158頁からは『すべてがFになる』で伏線になる場面が描かれている。先に述べたとおり、猫目トーチカは、順番にこだわる必要がないように、原作『四季』を注意深く再構成しているが、『すべてがFになる』→『四季』という順序で読めばこそ見えてくるものもあるのだ。

なお、「四季」シリーズの親ともいうべき『すべてがFになる』についても、霜月かいりがコミカライズを雑誌「ARIA」に連載中だ(10月にコミックス第1巻が刊行された)。
ちなみに、『すべてがFになる』は今回が2度目のマンガ化で、最初に手がけたのは浅田寅ヲである。浅田の『すべてがFになる』(全1巻)は2001年の刊行で、この時点では「四季」シリーズは存在しないので純粋に『すべてがFになる』をもとにマンガ化している。
一方、霜月かいりは「四季」シリーズを踏まえてマンガ化しているので(アニメも同様である)、両作品では真賀田四季の描写など、手触りが異なる部分がある。その点を読み比べてみるのも興味深いかと思う。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵女子」(小学館)にコラムを執筆。

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