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12月31日は大みそか 『げんしけん』を読もう! 【きょうのマンガ】

2015/12/31


365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

12月31日は大みそか。本日読むべきマンガは……。


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『げんしけん』第9巻
木尾士目 講談社 ¥514+税


12月31日、大晦日といえば何を思い浮かべるだろうか。
年越しそば、紅白歌合戦、(日をまたいでの)初詣……しかしマンガファンならばそれら以上に、冬のコミックマーケット(コミケ)最終日をあげる人が少なくないはずだ。

今年2015年の冬コミは、1975年12月21日の初開催から40周年を迎えてのはじめてのコミケ。
昨年2014年は、2008年以来となる12月28日~30日の日程で開催されたが、今年2015年は12月31日大晦日が3日目となる。

それだけ長い歴史があるのだから、当然マンガ作品のなかでも、コミケの様子はあまた描かれてきたわけだが、そのなかでも木尾士目によるオタクをモチーフとしたマンガ『げんしけん』の描写はその代表のひとつといえるだろう。

作品構造の確認だが、2002年春より連載開始された『げんしけん』は斑目たちが卒業する第6巻ラストまで、その月刊連載の発売季節とあわせ、一話完結ものとして現実と同期する時間が流れていた(なお第7巻の笹原×荻上編以降は異なる)。
つまり笹原入学の春からはじまり、一年上の斑目が卒業するまでの作中の3年間を、リアル時間においても3年間かけて描き出されていた。
それが本作がゼロ年代前半におけるオタク文化の生態学的ドキュメントとしても読まれるゆえんであり、実際その3年間のあいだに夏コミ・冬コミ(『げんしけん』内での呼称は「コミックフェスティバル」)は各3回ずつ描かれ、それぞれの開催年が2002年から2004年であることもはっきりと明示されている。

「萌え」がメディアで消費され、なかば死語と化す前の最盛期、美少女ゲームがエッジな文化としてあり、YouTubeやニコニコ動画もまだなく、ソーシャルメディアが普及する前の時代のオタクとコミケ。
2015年の末にこの1年を振り返るとともに、その時代を思いかえす/歴史を学ぶのもいいだろう。

ちなみに2002~2004年のコミケというとじつは、いずれも最終日が大晦日ではなく12月30日だったりもする。
だから『げんしけん』の大晦日といえば何より、初代ラストの第9巻で描かれた成田山への初詣。
ここまで読み進めてきた読者ならば必ずや、本作の主人公である斑目(というくくりには異論がある方もいるかもしれないが、それ以上に圧倒的賛同を得られるだろう)の姿に何度目かの涙を浮かべることになるはずだ。

あともちろん、2010年から再開された『げんしけん二代目』も現在絶賛連載中で、こちらには現代のコミケの様子が登場しもすれば、最萌キャラである斑目(というくくりには異論がある方もいるかもしれないが、それ以上に圧倒的賛同を得られるだろう)と男の娘・波戸くんとの現代的なLGBT問題にもコミットしうるだろう関係性からも目を離せない。
未読者は年始にまとめて読むように。



<文・高瀬司>
批評ZINE『Merca』(アニメルカ×マンガルカ×ジャズメルカ)主宰。アニメ/マンガ論を『ユリイカ』などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
TwitterID:@ill_critique
Merca公式ブログ

単行本情報

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