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『パワーパック:デイ・ワン』 フレッド・ヴァン・レンテ、マーク・スメラク(作) グリヒル(画)他 【日刊マンガガイド】

2016/02/12


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『パワーパック:デイ・ワン』


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『パワーパック:デイ・ワン』
フレッド・ヴァン・レンテ、マーク・スメラク(作) グリヒル(画)
御代しおり(訳) ヴィレッジブックス ¥2,900+税
(2015年12月26日発売)


実写映画化のおかげもあって、アメコミにはいろんなタイプのヒーローが存在していることが、ようやく日本でも浸透してきたように思う。

しかし、実写映画化されているアメコミヒーローは、アメコミヒーロー史全体から見れば、それこそ氷山の一角に過ぎず、マイナーなものたちを集めれば1000人を軽く超えるヒーローが創出されていて、当然ながらありとあらゆるタイプのヒーローが存在している。
そんなヒーロー天国アメリカにおいて、お子様がヒーローとして活躍するシリーズも当然ながら発表されている。その代表とも言えるヒーローチームがマーベルコミックスで誕生した『パワーパック』だ。

パワーパックは1984年にデビューしたヒーローチーム。科学者の子どもであるパワー家の4兄妹が、父親が開発していた発明を狙った侵略宇宙人との戦いに巻きこまれ、そこに現れた正義の宇宙人から4つの特殊な力を受けついで誕生する。

アメコミと言えば、今では年齢層の高い読者に向けたちょっとハイレベルな話という印象が強いが、かつては子ども向けの作品として売られていた。しかし、1980年代頃には、世界観やストーリーは複雑化していく。
そんななかで生まれた「パワーパック」も、子どもが主人公ながらも物語は完全な子ども向けではなく、学校やいじめ問題をとりあげる「大人向け」の作品として展開されていた。

そして、作品の舞台となるマーベル・ユニバースはいつまでも年月が過ぎないという世界ではないため、現実世界に比べると著しく遅いながらも、確実に年月が経過し、かつて子どもだったパワーパックの面々も成長していく。
すでに「子ども」とは言えない状態となり、すでにそれぞれの意思でヒーロー活動を行っているのが「正史」での現在の状況だ。

そんなパワーパックを21世紀初頭にリメイクしたのが本作である。
こちらは、完全に児童向けに徹して、正史とは異なる時間軸で活躍するヒーローとして設定された。主人公たちの年齢もターゲットである読者層に合わせて、長男のアレックスが12歳、長女のジュリーが11歳、次男のジャックが8歳、末っ子の次女ケイティが5歳となっている。
ある意味、子どものヒーローとしては正しい形で作りなおされ、作品を読む読者の年齢や兄弟間における自分の立場やキャラクターの性格で、より感情移入しやすくしているのがポイントだ。

さらに、子ども向けの作品ではあるが、内容は“子どもだまし”になっていないのにも好感が持てる。
本作に収録されているエピソードは、彼らの誕生譚を描いた表題作の「デイ・ワン」とアベンジャーズとの共闘を描いた物語の2つ。
オリジンに敬意を表しながらも現代的な要素を盛りこんだ物語と、キャプテン・アメリカやアイアンマンなどとの共闘というエピソードの先に、時空を超えて未来へと行ってしまう壮大な展開に発展する物語は、アメコミファンでも読みごたえがあるし、むろんその読み口の軽さからアメコミ初心者にも最適なのだ。

そして、もうひとつこの作品が日本人向けに仕上がっている理由がある。それは、アートを担当するのが日本人アーティストのグリヒルが担当していることだ。
グリヒルが描く、ややデフォルメされてカワイイけどかっこうよさも失わない絶妙なバランスのアートは、アメコミ初心者から敬遠されがちな「絵」の部分に関しても日本人としては受けいれやすくなっている。

日本人アーティストが描く、子どものヒーローチームもの……というと、アメコミとしては逆にちょっとした色モノ感があるかもしれないが、その両方の要素が日本人にとって読みやすい作品として化学変化を起こしているのは間違いない。
そして、そのちょっとした色モノ感から、現在のアメコミが示す作家性や作品性、多様性を感じることができるだろう。



<文・石井誠>
1971年生まれ。アニメ誌、ホビー誌、アメコミ関連本で活動するフリーライター。アメコミファン歴20年。
洋泉社『アメコミ映画完全ガイド』シリーズ、ユリイカ『マーベル特集』などで執筆。翻訳アメコミを出版するヴィレッジブックスのアメリカンコミックス情報サイトにて、翻訳アメコミやアメコミ映画のレビューコラムを2年以上にわたって執筆中。

単行本情報

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