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『九十九の満月』第4巻 小雨大豆 【日刊マンガガイド】

2016/03/16


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『九十九の満月』


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『九十九の満月』第4巻
小雨大豆 講談社 ¥620+税
(2016年2月9日発売)


奇々怪々な妖怪が生きる屋敷を旅する少年。
屋敷といっても100以上の棟と数千の部屋があり、天井は見えないほど高く、そして屋敷そのものもまた妖怪である。

陰陽師によってつくられた人造妖・違(ちがい)と、巨大な妖怪屋敷「おんでこ屋敷」を旅する鴨川満月。
妖怪たちが住まう妖怪たちの社会で、旅の道中で出会った人と龍の間に生まれた雪鷹、鬼の子・黄太と姉の紅と共に歩みを進めていく。

第1巻では出会いを、第2巻ではそれぞれのキャラクターを、第3巻で全員の力を合わせた戦いを、そして第4巻では様々な問いをストレートにぶつけている。

「なぜ働くのか?」
「この世は金か?」
「だれのために何をしていきたいのか?」
そんな真っ直ぐなクエスチョンに、複雑怪奇な妖怪たちと満月の合戦を通してアンサーを描く。

著者・小雨大豆は作中で独自に考えた妖怪たちの生態解説を行っているが、そのボリュームがすさまじい。
妖怪の数も、解説文のボリュームも、設定量も、著者の頭のなかでは確固たるひとつの世界が完成していることを感じさせる。

この執念ともいえる情熱はどこからくるのか。

キャラクターや世界にあるバックグラウンドの怪奇さと、物語のなかで打ち出されるシンプルなテーマ。
このアンバランスさが気持ちいい。

思い返せば、物語の入り口からして不思議なトーンだった。
本来なら人間はほぼいないはずのおんでこ屋敷に、なぜ満月がいるのか語られないまま、どんどん新たな妖怪が登場し続ける。
それぞれの妖怪の情報量に圧倒される感覚は、きっとおんでこ屋敷にいる満月が味わっているものだ。

多弁と寡黙を使いわけ、人を惹きつける作品。
マンガを読んで翻弄される感覚と、翻弄される楽しさを久々に味わった。



<文・川俣綾加>
フリーライター、福岡出身。
デザイン・マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブや、「マンガナイト」などで活動中。
著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』(岡田モフリシャス名義)。
ブログ「自分です。」

単行本情報

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