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『ぼくらのへんたい』第10巻 ふみふみこ 【日刊マンガガイド】

2016/04/19


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ぼくらのへんたい』


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『ぼくらのへんたい』第10巻
ふみふみこ 徳間書店 ¥620+税
(2016年3月12日発売)


『古事記』『七色いんこ』『ストップ!!ひばりくん!』とその起源には諸説あれど、「男の娘」という属性がサブカルチャー内で大きな注目を集めはじめたのはゼロ年代末と見ていいだろう。

2012年に連載が開始され、このたび全10巻をもって完結を見せたふみふみこの『ぼくらのへんたい』もそうした文脈上の代表作のひとつだろうが、同時にそうたやすくは収まってくれない異色作でもある。

簡単に振り返れば、『ぼくらのへんたい』は単なるトランスヴェスタイト(異性装)ものにはとどまらない――主要キャラクター3人全員が「男の娘」であることによって、さらに彼らの関係性のなかに同性愛を持ち込むことによって、見た目上は百合のようでいながら、しかし実質はBLであるという重層的な構造をはらんでいる。

そのうえで、異性装の理由もセクシャリティも個々に異なり、同時に普段と女装時でキャラクターが二重化しているため、登場人物の数に比して作品に複雑な奥行きが生まれもするだろう。

だからその意味では、中盤におけるキャラクターの深部へと潜っていく展開は、作品構造上避けえなかったはずであろうし、その末にたどり着いたこの第10巻は、その幸福な表紙に嘘のない「へんたい」をわれわれに見せてくれることになる。

『ぼくらのへんたい』は、裕太(まりか)の中学入学直前の春休みから、(エピローグ的パートを除き)中学3年生までという、心理的に多感な、身体が子どもから男性/女性へと変態する時期を描ききる。
そしてそのことは同時に、この4年に渡る連載期間中も『さくらの園』『神主と僕の彼女』と、自身にとっても切実な問題なのであろう「男の娘」の登場する作品を描きつづけてきた作者(=「ぼくら」の一人)ふみふみこの「へんたい」をもう、ながしていたはずだ。

『女の穴』から(ないしは『ふんだりけったり』から)いつの間にかだいぶ遠くまでやってきた。
まずは『ぼくらのへんたい』でその軌跡を確認すること、そのうえでいったいどんな「へんたい」を迎えたのか、いまから次回作が待ちどおしい。



<文・高瀬司>
批評ZINE『Merca』(アニメルカ×マンガルカ×ジャズメルカ)主宰。アニメ/マンガ論を『ユリイカ』などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
TwitterID:@ill_critique
Merca公式ブログ

単行本情報

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