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『グレイソン』 ティム・シーリー&トム・キング(作) ミケル・ハニン(画) 【日刊マンガガイド】

2016/07/03


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『グレイソン』


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『グレイソン』
ティム・シーリー&トム・キング(作) ミケル・ハニン(画) 内藤真代(訳)
小学館集英社プロダクション ¥2,200+税
(2016年5月31日発売)


DCユニバースを揺るがす大事件、「フォーエバー・イービル(Shopro Books刊)」の結果、正体を暴かれたうえで殺害されたと思われていたDC若手ヒーローの代表、ナイトウィング。
彼こそかつてバットマンの相棒、ロビンとして活躍していた少年の成長した姿である。
今回紹介する『グレイソン』の主人公は、じつは生きていたその元・ロビンにして元・ナイトウィング、本名ディック・グレイソンだ。バットマンの特命を受けて、死んだ身分を利用し、ヒーローたちの秘密を握る謎の組織に二重スパイとして潜入する彼の活躍が本書で描かれることになる。

しかしやはりヒーローとしての矜持があるグレイソンは、常軌を逸した事物をめぐって争う非情な諜報戦のなかでも正義を貫き通し、マスクもコスチュームも名前もない状態でそのヒーローとしての資質を試されることになっていく。
日々特殊任務をこなす彼の目の前に現れるのは「顔のない男」、文字どおりの肉食系美女をめぐる謎、超人戦士ミッドナイター、女学生のおっかけ集団、そしてけっして使わないと誓った銃……とめくるめく驚異と試練の連続であった。

二重スパイとして生きる緊迫感、超人のいる世界での諜報戦となると重厚なアクションものが思い浮かぶかもしれないが、実際にはそれらすべてを含めたうえで、かつユーモアと明るさを保っているコミックだ。

ディック・グレイソンのロビンは、もともとは子どもの読者の興味を惹き共感できる対象、またバットマンの対話相手として1940年に導入された。そのキャラクターはバットマンの世界に子ども向けの空気をもたらすとして敬遠された時期もあったが、一方で闇の騎士であるバットマンに明るさと希望を持たせる役割も担っている。75年以上にわたって、仏頂面でまじめなバットマンを自然に笑わせてきたキャラが、諜報戦の世界でいかにまわりのまじめな人々を笑わせ変えていくかという点も見どころである。

もうひとつ注目したいのが、同書に収録されているなかでの、DCコミック全体の未来編企画フューチャーズ・エンドの一環として収録された特別編である。絵と文とコマ割りで構成されるマンガの構造を最大限に活用し、隠された意味を読み解くと一度展開されたストーリーとはまったく逆の本当の結末が明らかになるという、技巧的に超ハイレベルな短編だ。同書を手にとられた時には、スパイにだまされないよう、ぜひじっくり読んでいただきたい。



<文・Captain Y>
アメコミオタク。Sparklight Comicsから翻訳を担当した「ファタール」「ベルベット」「デッドリー・クラス」「アクアパンク」が発売中。2016年7月20日にはShopro Booksより翻訳・解説を担当した「デスストローク(仮)」が刊行予定。
ブログ:Codex 40000 Redux建設予定現場
Twitter:@Captain_Y1

単行本情報

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