日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『桐生先生は恋愛がわからない。』

『桐生先生は恋愛がわからない。』 第2巻
小野ハルカ 小学館 ￥429+税
（2016年6月24日発売）

桐生ふたば、32歳、漫画家、独身。
「恋愛」というものが理解できなかったのに、自分が大嫌いな「ハーレムもの」を描いたら、まさかの超ヒット＋アニメ化。どうしてこうなった。
首をかしげながらも、仕事はきっちりやりたいとがんばる彼女。
ところがアシスタントの20歳の青年・朝倉裕と、アニメの脚本家の42歳の北村京介から、まさかのダブル告白。ふたばさん、大混乱。どうしてこうなった。

恋愛未体験女子が初めて色恋沙汰に直面するマンガ……という体裁を取っているが、この作品は「男をよく知らない」という話題では終わらせていない。
性のマジョリティ、マイノリティのギャップを描いた作品だ。

「クエスチョニング」という言葉がある。自分の性のありかたを探している状態のことだ。
異性愛者（ヘテロセクシャル）が今のマジョリティ。同性愛者（ホモセクシャル）、両性愛（バイセクシュアル）、性自認の不一致（トランスジェンダー）のようなセクシャルマイノリティも、近年はLGBTという語とともに理解され始めてきた。
さらに世の中には無性愛者（アセクシャル・ノンセクシャル）という、愛情は持てても恋愛感情・性的感情を相手に抱かない人もいる。桐生ふたばはクエスチョニング。自分の性が見極められない。

だから、彼女は「女性は恋愛好き」「彼氏できた？」という、ヘテロセクシャルな前提ありきの言葉に怒りを覚える。自分の描いたキャラクターがトランスジェンダーなのにもかかわらず、アニメ制作者側に、「どうせ男だから女の子とくっつけたほうがおもしろい」という考え方をされ、強く反発する。
異性装者（トランスヴェスタイト）とごっちゃにするなんて問題外なはずだ。けれども理解してもらえない。

たまたま朝倉と北村は、男性だった、というだけ。
彼女は2巻時点では「恋愛感情」「性的感情」はまったく持っていない。
彼女が2人に抱いているのは、興味や憐れみの情。
どちらかとすんなり恋愛が成立してめでたしめでたし、とはいかなさそうだ。

＜文・たまごまご＞
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」