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『白暮のクロニクル』 第9巻 ゆうきまさみ 【日刊マンガガイド】

2016/10/01


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『白暮のクロニクル』


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『白暮のクロニクル』 第9巻
ゆうきまさみ 小学館 ¥552+税
(2016年8月30日発売)


180センチ近い長身ヒロイン・伏木あかりがワトソン役で、88歳だが少年の風貌を持つ長命者(オキナガ)・雪村魁が探偵役――という異色の探偵コンビが活躍する伝奇ミステリ『白暮のクロニクル』。
1巻単位で事件を解決しながら、作品全体を貫く謎――羊年ごとに猟奇殺人を繰りかえす「羊殺し」――もあり、読者を作品世界に引きこんでいく。
そして、第9巻で魁たちは「羊殺し」の正体に肉薄することとなる。

厚生労働省の新人職員・伏木あかりは、厚生労働大臣参事の竹之内によって、謎の部署「夜間衛生管理課」(通称・やえいかん)に異動となる。
そこは「オキナガ」と呼ばれる不老不死になった人間を監督する部署。
そして、相棒として紹介されたのが、オキナガの雪村魁。
頭脳明晰だが、いささか偏屈な魁とともに、あかりはオキナガが関わる事件に挑んでいく。

魁が長年追求しているのは、「羊殺し」と呼ばれる連続殺人犯。
羊年のクリスマスに、若い女性を殺害して、内臓を持ち去っていく猟奇殺人鬼だ。
普段は冷静な魁が「羊殺し」には敵愾心をむき出しにするのは、かつての恋人・長尾棗も60年前に犠牲者となっていたからであった。

第9巻の作中時間は、2015年の12月7日から始まる。
そこから1日1日と「羊殺し」が活動するクリスマスに向け、日数がカウントダウンされ、物語に緊迫感を与えているのだ。
この第9巻では新キャラクター・桔梗凪人が登場する。
凪人は、少女にも見える美少年だが、生まれは1461年(寛正2年)だという。
数え7歳のときに「応仁の乱」が起き、その戦乱のなかで死にかけるのだが、竹之内から「血分け」されてオキナガとなった(同じように竹之内から「血分け」された魁には「兄」というべき間柄だ)。

この凪人という登場人物は、極めて怪しい。「羊殺し」の最有力容疑者である。
その一方でミステリには「犯人は物語の当初に登場していなければならない」という約束ごと(「ノックスの十戒」の第1条)があったりもするので、終盤に出てきた凪人が犯人というのも釈然としない……といったところで、ミステリマニアとしては、ゆうきまさみが「羊殺し」にどんな解決をつけるのか、非常に気になるところなのである。

ちなみに、『白暮のクロニクル』では、巻ごとに題名がついているのだが、第9巻のタイトルは「大きな羊は美しい」。「美」という文字は、「羊」と「大」の二つの漢字に分解できるわけだが、その題名が何を暗示しているのかは、読んで実感していただきたい。

『白暮のクロニクル』は12月26日発売予定の次巻で完結。
70年に及ぶ「羊殺し」の真相が明らかとなる第10巻を期待して待ちたい。

なお、本書には「限定版」があり、こちらには、ゆうきまさみが作画した三蔵山龍『ドラゴン急流』の小冊子がついている。三蔵山龍ってだれ? 『ドラゴン急流』なんてマンガあった? と疑問を抱いた方のために、補足をしておくと、三蔵山龍とは松田奈緒子『重版出来!』に登場する巨匠漫画家である。
『重版出来!』のTVドラマ化にあたり、小日向文世が演じる三蔵山が劇中で描くマンガ(それが『ドラゴン急流』だ)をゆうきまさみが作画したわけである。

松田のラフネームをもとに、ゆうきがネームを描き、完成させた両者の合作ともいってよい作品。
ドラマの小道具なので、わずか12ページのマンガで、完結しているわけでもないのだが、小冊子には、松田・ゆうき両者のネームが収録されているため、「マンガって、こんなふうにできていくんだ」という資料的価値も抜群である。まさにレアアイテムといえよう。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。

単行本情報

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