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『桐谷さん ちょっそれ食うんすか!?』 第1巻 ぽんとごたんだ 【日刊マンガガイド】

2016/10/01


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『桐谷さん ちょっそれ食うんすか!?』


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『桐谷さん ちょっそれ食うんすか!?』 第1巻
ぽんとごたんだ 双葉社 ¥620+税
(2016年9月12日発売)


桐谷翔子は、男女問わず人気が高い高校1年生。
立てば芍薬、座れば牡丹、黙っていれば百合の花――そんな言葉がよく似合う彼女は、じつは雑食系女子高生だった。
食への興味が見境なく広かった彼女は、昔からのご近所さんでもある生物教師・榊伸一がいる理科室をキッチンがわりに、今日も怪しげな「食材」をせっせと持ちこむのだ。

『桐谷さん ちょっそれ食うんすか!?』は、「月刊アクション」&「ニコニコ静画」で連載中の、食べもの系コミックの新境地を拓くグルメコメディ。
グルメコミックは数多いが、この作品は食材のハードルが高い高い。カエル、ヘビ、ノゴイ、サソリ、ババア(!?)と、普通の食生活ではお目にかかれないものばかりが毎回登場する。

桐谷さんもパンケーキやスイーツが大好きな女子高生だ。でありながら、なにゆえ変わったものを食べたがるのか?
「でもやっぱり 食べたことないもののほうが ワクワクするじゃないですか」
彼女は純粋な好奇心から、ひたすらまっすぐにその答えを求めているだけなのだ。

食材の特殊性も手伝い、通常のグルメコミックでは見られないノウハウも描かれている。
ヨーロッパトノサマガエル(食用)は、「シッタァァーン!!」と机の角に頭を打ちつけ手早くシメる!
マムシは「ドザスッ」と頭を包丁で一刀両断して手早くシメる!
さらに頭は毒の牙があるから、「トンカチなどの鈍器でかたちとどめないくらいつぶして下さい」など、「ちょっそれ食うんすか!?」と言う前に、何回「ちょっ」と言うはめになるのか不安になるほどだ。

食材のさばき方もオトコマエな桐谷さんだが、味つけもシンプルに「塩!!」と男らしい。
生物教師の榊は持ち前の知識を活かして、食用の野草をつんでそこに添えたりする。
興味のままにつっ走る桐谷さんをフォローしつつ道連れにされる榊が、けっこういいコンビになっている。

この作品を特徴づけるポイントとして、パンチがある食材を使っていながらも、食べる描写がきちんとおいしそうという点が挙げられる。
ただ単にゲテモノ食いをテーマにしたセミドキュメンタリーの体験コミックとは違うおもしろさがある。

また、グルメコミックに多く見られる過剰に修飾された言葉の羅列や、キャラクターのインナーワールドにダイブしたようなほとばしる味覚描写もひかえられているのだ。
楽しみにしていた食材をしっかりと咀嚼し、満足する桐谷さんの様子が描かれる。
そのうえで発せられる、「ぬまくなぁい…!!」とか、「これが熟女の魅力か!!」とか、あさっての方向にズレたまとめの言葉がなんともおかしく、次に食べるものでどんな感想が出てくるのだろうと、次回の食材にまた期待させられてしまう。

初めて食べる未知のものに向かいあった時の戸惑いやときめき。そんなワクワク感こそがこの作品の原動力だ。



<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。

単行本情報

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