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『手塚治虫文化賞作家が選ぶ Best of 手塚’s Work』 手塚治虫 【日刊マンガガイド】

2016/11/06


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『手塚治虫文化賞作家が選ぶ Best of 手塚's Work』


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『手塚治虫文化賞作家が選ぶ Best of 手塚's Work』
手塚治虫 朝日新聞出版 ¥1,400+税
(2016年9月20日発売)


タイトルのとおり、手塚治虫文化賞作家が選んだ「Best of 手塚's Work」。
セレクトされた作品は以下のとおり。選者の後のカッコ内は手塚治虫文化賞受賞作。
セレクト作の後のカッコ内は発表年と掲載誌を記した。

萩尾望都(『残酷な神が支配する』)……「ジョーを訪ねた男」(1968年「プレイコミック」)
浦沢直樹(『MONSTER』『PLUTO(プルートウ)」』)……「安達が原」(1971年「少年ジャンプ」)
諸星大二郎(『西遊妖猿伝』)……「人間牧場」(1961年「別冊少年サンデー」)
こうの史代(『夕凪の街 桜の国』)……『ゴッドファーザーの息子』(1973年「別冊少年ジャンプ」)
ヤマザキマリ(『テルマエ・ロマエ』)……「ガラスの脳」(1971年「週刊少年サンデー」)
村上もとか(『JIN-仁-』)……「マンションOBA」(1972年「少年ジャンプ」)
岩明均(『ヒストリエ』)……「紙の砦」(1974年「少年キング」)
今日マチ子(『アノネ、』『みつあみの神様』)……「カノン」(1974年「週刊漫画アクション」)

「ジョーを訪ねた男」は「プレイコミック」誌上に発表された「空気の底シリーズ」の一作目。
べトナム戦争で九死に一生を得た白人将校の足取りを、黒人差別の問題と絡めて描く。

「安達が原」は能の演目でもある「安達ケ原の鬼婆」を下敷きにしたSF作品。
15歳の浦沢はこの作品に倣い、SF仕立てに翻案した「羅生門」を描いたという。
浦沢版『羅生門』は、単行本『PLUTO(プルートウ)』3巻の豪華版の付録に収録された。

「人間牧場」は、偽物の世界からの脱出劇を描いたSF。
諸星は自身の作品「夢見る機械」への影響を示唆している。

自伝風作品「ゴッドファーザーの息子」と「紙の砦」は、手塚の漫画家としての原体験ともいえる空襲の記憶と、ストレートな反戦のメッセージがこめられた作品。
漫画家としての立脚点、根っこがどういうところにあるのか、非常に興味深い。

「ガラスの脳」は、生まれた時から昏睡状態の少女と、眠り姫にキスし続ける少年の純愛物語。
2000年には中田秀夫監督によって映画化もされた。

「マンションOBA」は宅地開発で住処を追われたオバケたちが人間への復讐を企て、新築された高層マンションに住みこむ話。続編の「春らんまんの花の色」も描かれている。

「カノン」は手塚と同年代の男を主人公に、戦後30年が経過した小学校のクラス会に出席する。
「ゴッドファーザーの息子」、「紙の砦」からの流れに連なる作品。
2000年に緒形拳主演でテレビドラマが放送された。

『手塚治虫文化賞作家が選ぶ Best of 手塚's Work』では60年代後半から70年代にかけての作品が多くセレクトされている。
この時期の手塚は、青年誌に暗く重い手ごたえの作品を発表して自身の作風を大胆に広げる一方、少年誌では思うようにヒット作が生み出せず、虫プロ商事、虫プロダクションの経営も傾き混迷のさなかにいた。
『ブラック・ジャック』(1973年)、『三つ目がとおる』(1974年)といった人気キャラクターを生み出し、みごとに少年誌に返り咲く、ほんのちょっと手前に描かれた作品が主だ。
人気キャラクターに恵まれなかった時期ではあったが、青年誌でつちかったダークな作風やハードなテーマを持ちこみ、卓抜したストーリーテリングで読み手の心に深い印象を刻みこむ短編が多く描かれたのだ。

好きな作家がどんな作品を選んだのかを見るのも楽しいし、何より大判サイズ(週刊少年誌よりも大きいA4サイズ)で手塚マンガを読めるのがうれしい。
衝突振り子のように漫画家たちの心を突き動かした作品の数々。
その衝動のエネルギーはいまだに損なわれていない。



<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。

単行本情報

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