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『総天然色 バカ姉弟』 第1巻 安達哲 【日刊マンガガイド】

2016/12/01


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『総天然色 バカ姉弟』


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『総天然色 バカ姉弟』 第1巻
安達哲 講談社 ¥1,204+税
(2016年11月4日発売)


ところは東京、豊島区の巣鴨。
ワビサビある下町情緒と商店街の活気があわせて人を包み込むこの土地に、幼い双子の姉弟が住んでいた。

大きくまんまるな頭と広いおでこの完璧な美しさが見る者を魅了してやまない、直感に優れた天才型の姉・おねい。
図鑑が大好きで大人にもまけない博識をもつ、良識ある秀才型の弟・純一郎。

町中のどこにでもひょっこりあらわれ、楽しげに遊びまわる2人はご近所の大人たちからおしみない愛情を注がれて、両親が留守がちな環境でもすこやかに日々を送っている。

端的にいえば、これは子どものカワイイ姿に大人がいやされる物語である。 しかし、そこに描かれるのは、けっして他人の理想にこびるかわいさではない。
特におねいちゃんは、「こうやってかわいがってやればこの子らは喜んでくれるだろう」という表面的な愛し方をたくみにかわし、あるいは反発する。
かわいがろうとした手をするりとくぐりぬけるさまは、まるで猜疑心の強い猫のようだ。

けれど、だからこそいいのである。
大人の思惑どおりにいかないからこそ自由な存在たりえているのであり、尊いのだ。
その尊さが巣鴨のご近所さんたちを、そして私たち読者をしみじみと感化し、まるで小さな仏様のような作用をおよぼしていく……。

そんな具合に、“徳のある”という表現がぴったりな内容で支持される『バカ姉弟』が、9年ぶりの単行本『総天然色 バカ姉弟』を出してファンを驚かせた。
第5巻まで積んだ巻数はリセットされてタイトルも何やら新装版のような趣だが、これは立派な続巻だ。

前巻(『バカ兄弟』 第5巻)では姉弟がハイティーンの青年に成長し、姉が世界的ピアニスト、弟が東大生になった15年後の姿が描かれ、すわ最終展開か! と思わせた。
しかし今回はあらためて推定3歳の時代まで戻し、合間合間に2人の中学~高校時代を挟みこむというカットバック式の構成になっている。

見どころは、やはり年齢を経て頭身がぐっと上がったバージョンのおねいちゃんだろう。
男子からは後光がさして見えるほどの超美少女に成熟した肉体で、幼児期の無垢な心もちのまま大人たちと関わる姿はなにやら独特の艶っぽいアンバランス感でたまらない。
恋愛経験やキスの経験があるかと質問された成長後おねいが、真顔でさらっと返答するシーンがものすごい破壊力なので、ぜひご覧いただきたい。

従来の『バカ姉弟』のおもしろさに加え、成長後のエピソードも楽しめる二層構造でますます味わい深い『総天然色 バカ姉弟』。
ここから読み始めても作品の呼吸はちゃんとつかめるので、『バカ姉弟』時代を既読・未読とわずオススメしたい。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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