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『葬送のリミット』 第3巻 篠房六郎 【日刊マンガガイド】

2016/12/18


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『葬送のリミット』


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『葬送のリミット』 第3巻
篠房六郎 講談社 ¥740+税
(2016年11月22日発売)


切れ味するどい人間観と軽妙なユーモアの両立で力強い作品世界を組み上げることに定評がある漫画家、篠房六郎氏。
その近作『葬送のリミット』が、11月下旬に刊行された第3巻で完結を迎えた。

舞台は、いつかどこかの地球。
そこには「梢気(しょうき)」と呼ばれる超自然エネルギーを、「枝器(しき)」という武器に具現化する戦士たち、通称「枝闘士(ブランチャー)」が存在した。
各都市にある闘技場では彼ら枝闘士が死闘を繰り広げる大会が催され、人々の見世物欲求に応えていた。

大会に出場する枝闘士は32名、いずれもワケあり、種族も様々な囚人だ。
始まれば一方が死ぬまで終わらぬデスマッチを勝ち抜き、ただひとりだけ生き残って恩赦を手にするのはいったいだれなのか。

……という、いわゆる剣闘士もの、もしくは御前試合ものにあたる趣向なのだが、本作のシチュエーションにはもう一段も二段も深い奥行きがある。

本作には、人間から迫害を受けている2種類の亜人が登場する。
ひとつはケモミミを生やして動物的特性が強い「狗族(ヌぞく)」。
もうひとつは異能力と頭部のツノを備えて人間から生まれる突然変異の女性たち「鬼族(ニぞく)」という。

本作のキーとなる少女、リミットは鬼族に属し、優れた予知能力を持っている。
彼女は命が危ういところを元・枝闘士の男バドラックに救われるのだが、その際バドラックは無実の罪で投獄されてしまい、恩赦を得るためふたたびトーナメントに参加することとなる。

リミットは予知した。
優勝者は、バドラックだ。それは同時に、バドラック以外の参加者は全員、トーナメントの過程で命を落とすことが戦う前から確定したということでもある。
自分の知らぬところで死と敗北が運命づけられた戦士たちは、各々が背負う事情を丁寧に描きこまれ、ちっぽけな存在が激しく生を燃やす姿を読者に刻みつけてくる。

第3巻では、2つの試合が展開する。
差別をこえて友情を育むも、差別のせいで大切な者たちを奪い、奪われ、殺しあう立場になった人間と亜人の青年たち。
家族を救うための大金を稼ごうと、強さを求めて自分から生体実験の材料となった亜人の父親。

各キャラクターのエピソードのしめくくりに、未来へ覚悟を向ける枝闘士の姿に「●回戦敗退」と近い将来おとずれる無情な結果がナレーションされる図の悲壮感!
これは、勝利を用意された「主人公」の物語を背景に敷いて、逆にふつうならストーリー展開の踏み台とされる敗者たちを前面に押し出したシビアな人間ドラマなのである。

また、人物の事情を紹介するにあたり、現在と過去の出来事を複雑に行き来する構成も見どころだ。 最初は何のことやらわからない断片的な状況が散りばめられ、やがてひとつにまとまっていくつくりは、一区切りつくごとに最初から読みかえして「ああ、そういう流れだったのか……」とあらためて意味をつかむ楽しみがある。 さらには、そうした個人の事情を通して、予知にもとづく聖典を占有して権力をふるう「教会」が亜人差別を生み出す社会構造まで掘り下げる手際もすばらしい。

ストーリーが大会の途中でばっさり終わって完結と銘打たれてしまったのは惜しまれるが、上述したように、「主人公」が行き着くマクロな結果よりも、むしろそれ以外の者たちがおりなすミクロな過程こそが肝なので、作品の性質を強める余韻を残したとみなすことができるかもしれない。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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