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1月19日は「カラオケの日」。 『ジャイアン殺人事件』を読もう!

2017/01/19


365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

1月19日はカラオケの日。本日読むべきマンガは……。


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『藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん』第12巻
(「ジャイアン殺人事件」所収)
藤子・F・不二雄 小学館 ¥1,800+税


1月19日は「のど自慢の日」。
1946年(昭和21年)に、NHKラジオで『のど自慢素人音楽会』が放送されたことがきっかけになって制定された。『のど自慢素人音楽会』は、にNHKテレビ『NHKのど自慢』となり、現在も放送が続けられている超長寿番組だ。

マンガ界で「のど自慢」といえば、ほぼほぼ10人が10人、同じキャラクターを心に思い浮かべるのではないだろうか。
そう、『ドラえもん』に登場する剛田武ことジャイアンだ!

ジャイアンといえばガキ大将として君臨し、にらみをきかせて集めた観衆を相手に、無理やりリサイタルを開催するほどの歌好き。
その歌声は「聞くだけで胸がわるくなるような」、「この世のものとも思えないすさまじいおんち」と形容されるものすごさ(大全集第5巻「おそだアメ」)。
今回紹介する「ジャイアン殺人事件」は、ジャイアンの歌声がついに殺人事件にまで発展!? という衝撃のエピソードなのだ。

町ゆく野良犬の足どりさえはずむ、ある晴れた日。
なにやら行く手にたちこめる不吉な気配に、叫びながら逃げ出す野良犬。
ただごとではない……と思ったら、ジャイアンが空き地で歌の自主練にはげんでいたのだ。

なんという迷惑。

のび太はジャイアンの歌を聞かされながら、ジャイアン本人はなぜ自分の歌で倒れないのかというもっともな疑問をあらためて口にする。
「あたりまえだろ、フグが自分の毒で死ぬか!?」というドラえもんの回答がなんともクールでしびれる。ジャイアンの歌を間近で聞き続けた2人ならではのやりとりだ。

ジャイアンの歌に耐えるのび太とドラえもん。
その背後から声をかける怪しい男。
「すばらしい!! こんなすごい歌はじめて聞いた」
ジャイアンの歌を録音した男はグランプリミュージックスクールの教頭で、この歌を校長に聞かせるのだという。
この話を聞いたスネ夫は、不自然な男の行動に犯罪の臭いをかぎとった。
「教頭はそのテープを、寝しずまった校長の耳にひそかに聞かせるんだ」
「すぐにはききめがあらわれない」
「しかし毎晩くりかえすうちに……、しだいに歌の毒がまわり……、
 校長は日に日におとろえ……、やがて命を落とす」
「そして教頭が学校をのっとるんだ!!  
 しかもあとにはなんの証拠ものこらない!!」

名探偵を務めたこともある(大全集第11巻「連想式推理虫メガネ」)スネ夫の灰色の脳細胞が高速回転する。
「名づけてジャイアン殺人事件!!」

な、なんだってー!

スネ夫の推理が真実なら、ジャイアンは知らぬうちに悪辣(あくらつ)な完全犯罪の片棒を担がされてしまう。
真相究明のため、ドラえもんとのび太が男の足取りを追うと……。
はたして2人はジャイアンの歌を利用した殺人事件を食い止めることはできるのか!?
その結末はぜひ単行本で読んでほしい。

じつはジャイアン以上に音痴なキャラクターが『ドラえもん』にいる。
何を隠そうドラえもん本人だ。
歌声を聞いたのび太、ジャイアン、スネ夫、しずかは例外なくひっくりかえりダメージを受けている。
「ジャイアンよりひどいぞっ」というのがのび太の忌憚(きたん)ない感想だ。

ただしドラえもんの名誉のために記しておけば、この場合は口から飛びこんだマツムシが電子頭脳に入りこんだせいで一時的にドラえもんが変になっていたというオチがついている(大全集第1巻「ドラえもんの歌」)。

また、しずかもヘタではないものの、一度マイクを握ると熱中してなかなか離さないことが描かれている(大全集第17巻「食べて歌ってバイオ花見」)。

歌がヘタな藤子キャラはまだいる。
『チンプイ』で、遠いマール星のルルロフ殿下に見そめられたシンデレラガール、春日エリもヒドい音痴なのだ(『藤子・F・不二雄大全集 チンプイ』第1巻「エリさま 初レコーディング」)。

うっかり口づさんでしまった時は、ボーイフレンドの内木くんの顔色の悪さで影響の大きさに気づいたほど。本人もそれを自覚していて、「自分じゃわかんないけどあたしの歌ってひどいんですってね」とわびている。
作中の描写によれば、エリさまの歌は「マッタリした音程のはずれ具合」と「ノッタリしたリズム感」が特徴。
歌を歌うとビリビリに引き裂かれたボロ布のような吹き出しで表現され、なかなかの威力がありそうだ。

しかし「正確な歌などいくらでも電気的に合成できます」、「しかし……これを微妙にはずして歌うことは人間にしかできません」、「いかにも人間らしい人間の歌!!」、「いま求められているのがそれなのです!!」と力説する宇宙人の褒め言葉に気をよくし、発展途上星援助資金のためチャリティーソングをレコーディングすることになるのだ。

あれ? もしかして、ジャイアンの歌は宇宙でなら受け入れられるのかも?

それにしてもジャイアンのヒドい歌声を表現する擬音「ボエ~」はすばらしい。
毛虫のようにびっしりと毛が生えた描き文字も、ゾワゾワするような手ざわりまで表しているようだ。
「カラオケの日」に、ジャイアンの歌声を想像しながらじっくりと味わい直してみるのはいかが!?



<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。

単行本情報

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