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『刃牙道』 第15巻 板垣恵介 【日刊マンガガイド】

2017/01/29


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『刃牙道』


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『刃牙道』 第15巻
板垣恵介 秋田書店 ¥429+税
(2017年1月6日発売)


日本最高峰の格闘マンガといっても過言ではない『刃牙』シリーズが、今年でついに連載25周年を迎えた。

長い歴史を持つ本シリーズ、『グラップラー刃牙』『バキ』『範馬刃牙』と、これまで様々な強敵が登場した。格闘家や猛獣はもちろん、ヤクザ、軍人、死刑囚、そしてあげくのはてには原始人と、ありとあらゆる猛者を描き続けてきた。
これだけいろいろ描けば、もう闘う相手なんかどこにもいないだろう……読者がそんなことを思っていたら、現在連載中のシリーズ『刃牙道』で登場したのは、クローン技術によって現代に甦った宮本武蔵だ!

しかし、読者もすでに20年以上のつきあいだ。「うん、まあ『刃牙』の世界なら宮本武蔵が甦ることだってあるだろう」と、武蔵復活という衝撃の展開もあっさり受け止めていた。
だが『刃牙道』には、そんなすれっからしの読者のド肝を抜く展開が待っていた。それが本部以蔵(もとべ・いぞう)参戦である!

刃牙を知らない人や最近新しく読み始めた読者には、この衝撃がどれほどのものかわからないだろう。
本部以蔵――「生きる伝説」とも呼ばれる超一流の柔術家として物語初期から登場している人物だ。
登場初期はセリフに古印体というまがまがしいフォントが使用され、強者のオーラを存分に発揮していた。しかし、その大層な肩書きとものものしい登場シーンにもかかわらず、作中ではたいした活躍を見せることができず、すべてを伝えた弟子の花田は刃牙の対戦相手のかませ犬となり、本部本人も地下最大トーナメントでは横綱相手に屈辱の1回戦負け。
結局、試合を観戦しながら完璧なタイミングで解説を挟んでくれるおじさん、というポジションが板についてしまった。その後、現在TVアニメ化が発表されている「最強死刑囚編」では、何の前触れもなく登場して、一瞬だけ謎の輝きを見せたものの、それ以降はシリーズ通してほぼ出番なしである。

そんな本部が武蔵との闘いに参戦である。
ほかのマンガでたとえると、『ドラゴンボール』なら魔人ブウの前にヤムチャが立ちはだかるようなものであり、『北斗の拳』なら修羅の国に牙一族が上陸するようなものであり、『島耕作』シリーズなら島の会長就任発表の場にフィリピンで銃殺されたはずの樫村が居合わせるようなものである。
つまりひと言でいえば「場違い」の3文字ですませられるはずなのだが、この本部がすごかった。

武蔵復活の報を聞いた本部は「刃牙も……独歩も……渋川先輩も……否―― 勇次郎でさえも――俺が守護(まも)らねばならぬ 」という一世一代の迷言で読者を困惑させたかと思うと、仲間を守護るために本格的に動き出す。
なんと本部は武蔵と闘おうとする格闘家を止めるために彼らの前に立ちはだかったのだ。解説しか能のない口先だけの男ではなかったのだ、本部は!

その結果本部は、現代最強の中国拳法家・烈海王と互角に闘い、煙幕を使った奇襲で刃牙に己の未熟さを痛感させ、地上最強の生物と言われた刃牙の父親・範馬勇次郎を口げんかで涙目にし、『グラップラー刃牙』のラスボスであったジャック・ハンマーの歯を根こそぎ引っこ抜くという圧倒的な活躍っぷりだ!
この本部の予想外な強さに、つい作中のキャラまで「本部以蔵とはこんな水準(レベル)だったのか!!?」と読者の気持ちを代弁するほどであった。

『刃牙』シリーズはシリーズ累計で、すでに100巻以上刊行されている作品であり、強さの序列はある程度確定していた。その序列を『刃牙道』で本部が次々とひっくり返していったのである。これまで長年積みあげられてきた強さの歴史を塗りかえる本部の下剋上に、多くの読者が衝撃を受けた。
この本部の快進撃に影響されたのか、最近発売されたLINEの刃牙スタンプでは、全40枚中、4枚も本部が使われている! 刃牙スタンプの10%が本部! そして、どれもほかのスタンプに比べて微妙に使いづらい!
いったいどういう会話をすれば「俺が守護らねばならぬ」なんてスタンプが使えるんだ!(逆に烈海王と愚地独歩のスタンプは使い勝手が良いぞ!)

そうした過程を経て、ついに実現した宮本武蔵対本部以蔵! この日の決戦に備えて毒も暗器も策も充分に仕こみ、本部以蔵推して参る!
だが、この時点では読者の誰もが本部の負けを予想していた。
だって、本部だし……ってか話の流れ的に武蔵はこの後主人公の刃牙と戦わなきゃいけないじゃん……。

って思ってたのに、本部が勝っちゃったよ!
どうするんだよ、この後! 大統領交代ネタだって4年に1回しかできないんだぞ!

というわけで、シリーズ25周年目というメモリアルイヤーなのに、早くも波乱の展開を迎えている『刃牙道』。
今後武蔵はどうなるのか? 主人公の刃牙には出番があるのか? ガイアの二重人格設定って忘れられてない? などなど、衝撃の展開とともに、読者に様々な期待と憶測を呼び起こしており、今年もいろんな意味で「刃牙」から目が離せない!
……ってか本当にどうするんだろう、これから……。

とりあえず、本部先生お疲れ様です。



<文・犬紳士>
養蜂家。好きな地下格闘士は稲城文之信。

単行本情報

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