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『このマンガがすごい! comics バック・トゥ・ザ・フューチャー アントールド・テイルズ』 ボブ・ゲイル(監) ブレント・シュノーヴァー(画)ほか 【日刊マンガガイド】

2017/02/08


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『このマンガがすごい! Comics バック・トゥ・ザ・フューチャー アントールド・テイルズ』


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『このマンガがすごい! comics バック・トゥ・ザ・フューチャー アントールド・テイルズ』
ボブ・ゲイル(監) ブレント・シュノーヴァー(画)ほか 宝島社 ¥1,850+税
(2017年2月8日発売)


『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下、『BTTF』)シリーズといえば、マイケル・J・フォックス主演で1985年に第1作目が、1989年に第2作目、1990年に第3作目が公開されて大ヒットを記録した、映画史に残るタイム・トラベルを題材としたSF映画であることは、すでにご存じだろう。

主人公のマイケル・J・フォックスが演じるマーティ・マクフライが、友人である科学者のドクことエメット・ブラウン(クリストファー・ロイド)が完成させた、デロリアンDMC-12を改造した時間を超えるタイムマシンの実験を手伝ったことをきっかけに、時間を飛び越えて自分が生まれる前の両親のもとに向かい、自身の家族の過去と未来の運命を変えるべく奔走する姿が描かれる。
単なるSF映画ではなく、タイム・パラドックスを巧妙に使ったコメディ映画であり、タイム・トラベルした先の時代性に合わせたギミックや設定を駆使したアクション映画でもあり、そして青春映画の要素も取り入れながらも、絶妙なバランスで成立している作品であり、それが長きにわたって愛され続けている理由だといえるだろう。

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『BTTF』のファンブックもおすすめ!

そんな『BTTF』には、この作品でしかありえない、特別な日が存在している。
それは、いわゆる「公開から●周年」というアニバーサリーイヤーというかたちではない、“未来の日”と呼ばれる記念日(正確にいうと、記念する年月日)だ。
『BTTF PART2』で、マーティが事件解決で向かうことになる未来の日時が「2015年10月21日」が、まさに“未来の日”にあたる。
ファンの間では、「あの日予想された“未来の日”がついにやってきた」ということで、その日が近づくにつれてネットなどを中心に注目が集まりはじめ、これにあわせてフィギュアや劇中プロップを再現した『BTTF』関連の記念アイテムなども多数作られている。
もちろん、ファンによって当時の映像と現在の科学技術や様々な現実的な事象の検証が行われるようなことから始まり、日本国内でも自走するデロリアンによるデモ走行が行われるなど、近未来を舞台にしたタイム・トラベルSF作品だからこその盛り上がりを見せたことを記憶しているファンも多いはずだ。

そして本作『バック・トゥ・ザ・フューチャー アントールド・テイルズ』(原書タイトル『BACK TO THE FUTURE COMIC SERIES Untold Tales and Alternate Timelines』)は、先に述べた「未来の日」にあわせるかたちで、2015年10月21日に第1話の発売がスタートした全9話のオムニバス構成のアナザーストーリーとなっている。

『BTTF』3部作は、名作として長年愛され続けている作品であることから、映像本編自体が説明不足になっているということはないが、それでも何度も映画を見ていると、ほんのちょっとした疑問が浮かんだりもするはずだ。
たとえば、「あんなに年齢の離れているマーティとドクは、どうして気心の知れた友人としての関係が築けているのか?」、「そもそも、ドクはなぜタイム・トラベルをしてみようとしたのか?」という設定の根本的な部分などは、物語の流れとして納得しているものの、あらためて考えてみれば「そういえばなんでだろう?」と思う箇所であるはず。
もちろん、どんな映画でもそうした作品が冗長になりすぎないよう「映画表現としてあえて説明や関係性を省略した部分」というのは存在する。
しかし、一方で、米国でもいわゆる映画をコミック化する「コミカライズ」以外に、こうしたストーリーの間にある「ふとした疑問」を埋めるアナザーストーリーが描かれることも多い。
人気作である『BTTF』ならば、アナザーストーリーが描かれていてもおかしくないが、『BTTF』は、根強い人気を持ち続けながらも、なかなかこうしたアナザーストーリーが描かれる機会がなかなか訪れることがなかった。
そして、20年以上の時を超えて、この映画だからこそ存在する記念日である“未来の日”にあわせて、初のアナザーストーリーが語られることとなったのだ。

14歳のマーティと62歳のドクの出会いのエピソードは、現在当サイトで試し読みができる。

14歳のマーティと62歳のドクの出会いのエピソードは、現在当サイトで試し読みができる。

アナザーストーリーのコミック化にあたっては、映画版の製作と共同脚本を担当したボブ・ゲイルが参加することによって、映画版の設定や雰囲気を重視した内容となっている。
気になるストーリーは、マーティとドクの出会いを描く「マーティとドクが出会った日」を皮切りに、劇中で描かれなかったドクが変わり者の科学者となっていくその過去、マーティと恋人のジェニファーとのなれそめ、西部開拓時代のヒルバレーでドクと結ばれるクララのオリジンといった、登場人物のキャラクター像を掘り下げていくエピソードと、映画版で描かれた細かい設定やシチュエーションを拡大して描くという2つの流れが混在する形となっている。
特に後者に関しては、「自分たちを結びつける役割を担ったカルバン・マーティ・クラインに、ロレインとジョージがもう1度会いたがる」、「1作目のラストでデロリアンを飛行可能にしていた技術はどこから来たのか?」など、“それって、ちょっと気になる!”というネタもチョイスしており、単なる過去話だけに終始しないストーリーのバラエティ感も魅力となっている。

巻末には、アメリカ国内で活躍する有名コミックアーティストが手がけた、『BTTF』のバリアントカバーやポスターアートを収録。こちらも様々なイマジネーションやイメージ、アプローチによって表現される『BTTF』のアート的な魅力を楽しむことができる内容となっている。

本作は、『BTTF』だからこそ、『BTTF』じゃなければ存在しないともいえる“未来の日”を記念する1冊であることは間違いないので、『BTTF』ファンはぜひ手にしてこの特殊なアニバーサリーブックの魅力を堪能してほしい。



<文・石井誠>
1971年生まれ。アニメ誌、ホビー誌、アメコミ関連本で活動するフリーライター。アメコミファン歴20年。
洋泉社『アメコミ映画完全ガイド』シリーズ、ユリイカ『マーベル特集』などで執筆。翻訳アメコミを出版するヴィレッジブックスのアメリカンコミックス情報サイトにて、翻訳アメコミやアメコミ映画のレビューコラムを2年以上にわたって執筆中。

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