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【インタビュー】藤田和日郎『双亡亭壊すべし』 主人公のセリフが「こええなァ〜」でいいの!? 強くなくても、超能力がなくても、コイツが主人公!!

2017/05/01


「自分だけではダメ」 すべてはマンガのためになんでも吸収!

──今回、描いていていちばん楽しい部分はどこでしょう?

藤田 昔はアクションシーンを描くのが楽しかったんですけど、今回は怪異ですね。それから怪異に恐怖した人の歪む顔。なんか楽しいですよ。『月光条例』の時にはあまり出せなかったので、「戻ってきたな」という感じがしますね。

──今作には「ゾナハ病」(『からくりサーカス』)という単語を初めて聞いた時のような、ゾワゾワしたいいしれぬ恐怖がありますね。

藤田 おぉ、「聞いたことのない新鮮な何か」ですよね? なるほど、なるほど。今回は「いつか描いてみたいなぁ」と思っていたものを絵にできるので、すごく楽しいですよ。ルドンという画家がいて、すごく気持ち悪い絵を描くんですけど、ご存じですか?

──黒い目とかを描く画家ですよね?

藤田 そうです、そうです。「双亡亭」に侵入した森田が、川で子犬を助けられなかった過去を思い出すシーンがありますよね。あそこで出てくる絵はルドンの絵がモチーフです。「こういうのは気持ち悪いな」と思って描くのは、楽しいですね。好きだった画家の絵とにらめっこして、どんなところを気持ち悪いと感じたのか、それを考えながら絵にするのって楽しいですよ。なんかね、そうやって自分がこれまでに吸収してきたものを、自分のなかでもぐもぐとやって、それを作品として出すのがおもしろいんですよ。

有名な絵画がモデルだというこのシーン。恐怖に絶叫する人物の表情も納得。

有名な絵画がモデルだというこのシーン。恐怖に絶叫する人物の表情も納得。

──「二笑亭」にしても『ヘルハウス』にしても、いまのルドンにしても、藤田先生は元ネタというか、参考にしたものをオープンにしますね。

藤田 うん、元ネタを知られるのを嫌がる作家さんもいるんですけど、自分はむしろうれしいんです。「アレでしょ?」っていわれると「うん、そうそう。キミもあれ好きなんだ、どこがよかった?」って聞きたくなる。もちろん、その元ネタを知らなくても全然おもしろいんだけど、自分としては隠すつもりもないんです。隠そうと思っても、隠せるもんじゃないですしねぇ。いろいろなものを出したい。まぁ、こんなマンガ描いててこんなこというのもアレなんですけど、秘密を秘密のままにしておくのがすごくイヤなんですよ。

──ルドンは押見修造先生が『惡の華』でもモチーフにしてました。

藤田 へぇー! そういう方は、押してみると、もっといろいろ出てくるでしょうね。

──映画とか小説とか画集とか、いろいろなところからアイデアを吸収しているんですね。

藤田 「自分だけではだめ」と自覚するところから、漫画家になることは始まるんじゃないかと思います。作品を描き続けるには、自分だけではどうしようもないぞ、と。自分の身体のなかから出てくるものだけでは、きっと1回や2回の読み切りでなくなっちゃうと思うんですよね。だから新人時代には本を読め、いろいろなものを見ろ、って教えられるんでしょうけど。まぁ、漫画家になるくらいだから、たいていはマンガやアニメは好きなんですけど、それだけでは新しいものは見せられないので、ドキュメンタリーやエッセイ、文章や映画の世界を自分のなかに入れて、そこではじめて機能する、というか。ただ、そこで「勉強しなきゃいけない」と思うのではなくて、「何か違うものを入れれば作品として出せる」と考えれば、こりゃあいいですわな。マンガの食い物になるものだったら全部食って咀嚼して、それを出したいわけですよ。

ついに発売の第4巻発売! そして気になる物語のこれからは?

──いよいよ4巻が発売されますが、。

藤田 この『双亡亭壊すべし』は、最初から短距離のつもりで走っています。

──そうなんですか?

藤田 『ゴースト アンド レディ』の時は、短いものを集中的につくるということをやりたかったので、「次も短くやりますよ」とはいってたんです。『うしおととら』も『からくりサーカス』もそうなんだけど、自分の作品は長いんですよね。『月光条例』にしても全29巻ですしね。もうね、みなさんの本棚を圧迫しているわけじゃないですか。それにね……。

──はい。

藤田 「中だるみしているなぁ」とかいわれるんですよ! 腹の立つことに!!

――そ、そうなんですか。

藤田 こっちは中だるみなんてしてねぇや! とも思うんだけど、でも長いからそういわれるのかな? じゃあ短ければだるだるにもならんだろ、と。

――最近の傾向として、読者が結末を急ぎすぎるきらいはあると思います。

藤田 そうかもしれないけど、こちとら毎回毎回「読者の要望に応えるぞッ!」みたいな、もう喧嘩みたいなもんですよ!(笑)

──じゃあ『双亡亭壊すべし』は、短めの話なんでしょうか?

藤田 あんまり長くなると、途中で買ってくれなくなる読者もいるし……。いや、編集さんや編集長から「早く終われ」といわれているわけではないですよ!

──そりゃ、人気のあるうちは「終われ」とはいいませんよね?

担当 コミックスの動きもいいですよ、先生。

藤田 おお(笑)、うれしいです! ただね、難しいのは、これは自分が大好きなホラーですから。だからさぁ、どうしてもタメも必要なんですよ。こっちでダッシュさせたいと思っていても、ちょっと段取りを踏んでタメをつくって……みたいな部分が必要になる。

──じゃあ、短くなるか、長くなるか、まだわかりませんね(笑)。

藤田 うん、4巻で明らかになる謎もあるから、まずはそれを楽しんでくださいまし!

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『双亡亭壊すべし』 第4巻
藤田和日郎 小学館 ¥429+税
(2017年4月18日発売)

取材・構成:加山竜司

藤田和日郎先生『双亡亭壊すべし』インタビュー第1弾はコチラから!

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