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【インタビュー】スケラッコ『大きい犬』住宅街に家くらいの大きい犬がいる!? 日常のなかに溶け込む「非日常」

2018/06/25


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、スケラッコ先生!

京都を舞台に同じお盆の1日を何度も繰り返す女子中学生の姿を描いたデビュー作『盆の国』が、各方面で大きな反響を集めたスケラッコ先生。
 昨夏に出版された『大きい犬』は、家ぐらい大きい犬と青年の交流を描いた表題作を筆頭にシュールでほのぼのした、これぞスケラッコ・ワールド!と膝を打ちたくなる珠玉のショートストーリー7編を収録。「このマンガがすごい!2018」オンナ編第9位を獲得するなど、またしても大絶賛を巻き起こした。
 人間はもちろん、妖怪から動物、神様まで、生きとし生けるものたちが繰り広げる、いわゆるファンタジーともコメディとも違う、奇妙なおかしみあふれる世界が生まれるに至ったヒミツははたしてなんなのか? スケラッコ先生に伺いました!

著者:スケラッコ

京都在住。
初の商業単行本マンガ『盆の国』(リイド社)に続き『大きい犬』が、『このマンガがすごい!2018』オンナ編第9位にランクイン。
現在は、リイド社の新感覚マンガ&カルチャーサイト「トーチweb」にて『平太郎に怖いものはない』、芳文社「いただきマス幸せごはん」にて「しょうゆさしの食いしん本」のご飯マンガを連載中。


非日常ぽいものも、なんでもない日常の描写も好き

――手前ミソですが「このマンガがすごい!2018」オンナ編第9位獲得おめでとうございます。昨年の「盆の国」につづき、2年連続でランクインですね。

スケラッコ  ありがとうございます。選んでくださった皆様と読者の皆様に感謝しています。

――まずは収録作についておうかがいしたいと思います。表題作の『大きい犬』は、なんの変哲もない住宅街に家のように大きな犬がいて、当初は注目を集めていたが今や風景のようになじんでいる……という設定がシュールで魅力的です。着想はどういったところから?

スケラッコ  散歩している時に、家ぐらい大きい犬がいたらおもしろいなあ……と思いつきました。犬も猫も好きなので、なぜ犬になったのかはうまく説明できないんですが、猫よりは犬という気がして……。犬に対する思いについては、「マンバ通信」というサイトで「わたしと大きい犬」というマンガを掲載していただいたので、ぜひ読んでもらえればと思います。

――たしかに犬って猫よりもおおらかというか、悠然としてる感じですよね。特に大きい犬は飼い主に従順でもゆったりかまえていて、なんでも受け止めてくれそう(笑)。「大きいのに存在感ないんだよー」と自分でいう犬くんのトボケた感じも愛おしすぎます。この犬くんだけでなく、スケラッコさんのマンガの登場人物は。自己主張は強くないけど、悠然とした強さのようなものが感じられていいです。

自らの大きさを把握し、さらに自分の立ち位置を客観視している「犬くん」。
しかし、こんなに落ちついた犬、見たことない……!

スケラッコ  どうでしょう。そういう感じが好きなのかもしれませんね。

――『盆の国』のおしょらいさましかり、「奇妙で歪なもの」が見慣れた風景のなかにしれっと紛れている感じもユーモラスでたまりません。「日常の中の非日常」的なものに惹かれる部分はありますか?

スケラッコ  そうですね。非日常ぽいものが好きなんだと思います。

――あと高田くんが、なぜか当たり前のように犬語を話せたり、設定自体はすごく突飛なのに劇的な事件が起こるわけではなく、犬くんと高田くんのほのぼのした交流が淡々と描かれるストーリーも楽しいです。

スケラッコ  深い意味はないんですが、犬語が話せたら楽しいだろうなあ……と思って。非日常ぽいものが好きな一方で、なんでもない日常の描写も好きなんです。

――高田くんが毎日仕事の行き帰りに犬くんの前を通って、挨拶を交わす様子を並列して見せたページの描写もミニマルでおもしろいですよね。平凡な毎日が淡々と繰り返されるんだけど、同じように見えて、じつはどれひとつ同じ日はなくて、そこに小さな変化や喜びがある。スケラッコさんの「小さな日常」への愛を感じずにいられません。

晴れの日も、雨の日も、「犬くん」は変わらずにそこにいる。
一見かわり映えのない毎日だけど、高田と「犬くん」は徐々に親交を深めていく。

スケラッコ  あのページは絵的に楽しいかなと思って書いたのですが、映画だったらアキ・カウリスマキやウェス・アンダーソンは好きですね。登場人物が無言で座っているだけ、でも何か伝わってくるシーンや、映画に出てくる細かい小物などに魅力を感じます。

――まさに、スケラッコさんのマンガも犬くんが座っているだけなのに「物語」が感じられます! ほかにお好きな作家さんなどはいますか?

スケラッコ  最近は滝口悠生さん、今村夏子さんの小説が好きで読んでいます。

――私も好きですが、どちらも唯一無比な作家さんで、スケラッコさんに通じるものがある気がしますね。
 『大きい犬』では、犬くんが高田くんの言葉に触発されて初めて散歩に出かけて、もっといろんなものを見てみたいと沖縄へ旅に出るラストも「変わってゆくものと変わらないもの」みたいな、『盆の世界』にも通じる二元論的なものや大きな時間の流れを感じさせつつ、甘酸っぱくも清々しい。スケラッコさん自身は、旅はお好きですか?

スケラッコ  旅はあまり行ったことがないので、得意ではないかもしれません。旅が得意になれたらいいと思ってます。そういうふうなので、私自身は沖縄にも行ったことはないのですが、犬くんが旅に出るならあたたかくて海があるところがいいなと思って、沖縄にしました。いつか行ってみたいですね。

――『大きい犬』の続編的作品となる『小さい犬』では、大きい犬くんに加えて、チワワのような小さい犬が登場します。見た目も性格も真逆な二人のユーモラスな交流は『トムとジェリー』や『あらしのよるに』のガブとメイなど、カトゥーンや絵本の物語を彷彿させます。スケラッコさんはカトゥーンや絵本はお好きですか?

沖縄に移り住んだ「犬くん」は、チワワの「ポロ」に遭遇する。
ポロは「犬くん」に対して対抗意識をもっているようで……?

スケラッコ  絵本は好きです。レイモンド・ブリックスの『サンタのたのしい夏休み』は、家にあってとても好きでした。島田ゆかさん『バムとケロ』シリーズも大人になってから好きになりました。

――なるほど、『バムとケロ』シリーズは食いしん坊のスケラッコさんらしい。『サンタのたのしい夏休み』もスケラッコさんがマンガで描いていそうな話です! 
 サンタクロースといえば、スケラッコさんの『クリスマス幸子』はお母さんがクリスマスが嫌いで、それゆえクリスマスケーキを売るのが生き甲斐になった幸子のお話です。ここでも劇的な奇跡は起こらないのですが、いろいろあって幸子は積年の思いをお母さんに伝えて、クリスマスのメニューもお母さんとの関係もほんの少しだけ変化するというラストにじんわりさせられます。スケラッコさんはクリスマスはお好きですか?

スケラッコ  好きですね。サンタとかクリスマスケーキとかクリスマスツリーとか、『クリスマス幸子』のクリスマスシーンは描いていてとても楽しかったです。『しょうゆさしの食いしん本』というエッセイマンガでは、実家のクリスマスのことを描いています。

――あれはラザニアが食べたくなりました! スケラッコさんのマンガにはストーリーとは直接関係のない食卓の風景がたくさん登場しますよね。それがじつにおいしそうで、登場人物たちが平凡な日々を楽しんでいる様子がいきいきと伝わってくるのですが、『しょうゆさしの食いしん本』や『磯辺チクワちゃんのお話』で描かれるスケラッコさんのご実家の食卓の様子には、そのルーツを感じずにいられません。こういう家庭でのびのびと育たれたからこそ、この自由であたたかな作風が育まれたのかなあと。

スケラッコ  どうなのでしょう? いずれにしても、実家の食卓は影響があると思いますね。あと、食べ物の絵を描くのは単純に好きですし、描く時はおいしそうに見えるように心がけています。

――食べ物といえば『給食のおばさんホーライくん』も最高です。小さい頃から給食のおばさんに憧れていて、夢を叶えて給食のおばさん(!?) になったホーライくんの給食愛がほとばしる一作で、読んでいるとむしょうに給食が食べたくなります!

定番メニューのからあげに加え、「味噌汁のなかに半熟卵」というちょっとした遊び心も入れたホーライくんの給食。
こんな給食が毎日出たら楽しみでしょうがない!

スケラッコ  ありがとうございます。『給食のおばさんホーライくん』はもともと、給食をテーマにしたとある企画があって。結局、その企画はなくなったのですが、それがきっかけで生まれた作品です。

――私の娘が小学生でスケラッコさんの大ファンなんですが、まさにホーライくんのように毎日給食のメニューを眺めてはわーわー盛り上がっては、誰か休まないかなーとかいってて。子どもの頃、給食って輝いて見えたよなーって。 

スケラッコ  なんと、お子様にも読んでいただけてうれしいです! 私も給食は大好きでした。いろいろ好きなものがありましたが、ミートソースで食べるソフト麺みたいなのをぱっと思い出しました。

――ありましたね、懐かしい……。『給食のおばさんホーライくん』は給食を作る権利をめぐってフードバトルになる展開も最高です。キツネの会社だからお揚げさんづくしで中学生には不人気かと思いきや、お揚げのなかに万札が仕込まれてるっていう驚愕の流れで(笑)。
給食のメニューが大事件だったり、このままずっと夏休みだったら…と願ったり、スケラッコさんのマンガを読むと、いつのまにか忘れていた「子どもの頃の感覚」が蘇ってきます。

スケラッコ  そういってもらえるとうれしいのですが、私のなかには「子どもの感覚」は少ないと思います。子ども時代に戻りたいとも特には思わないのですが、子どもが描いた絵をたまに街で見みかけたりして、いい絵だなーと思ったりすることはありますね。

――『大きい犬』では『七福神再び』も大好きな作品です。主人公のおじいちゃんがじつは七福神のえびすさまで、バラバラになってしまったかつての仲間を探し出して、再びともに旅に出る……というストーリーが荒唐無稽ながらも感動的です。

仲間のひとりである「毘沙門天」は……なんとバイク乗りになっていた!?
神様が「バイク乗り」というこのギャップにも、あふれるユーモアが。

スケラッコ  特に七福神に思い入れがあるわけではなく、おめでたい雰囲気があっていいかと思ったのですが、描いていて楽しかったですね。『七福神再び』では主人公がえびすさまのおじいちゃんと回転寿司にいくシーンもお気に入りです。


『大きい犬』
スケラッコ リイド社 ¥630+税
(2017年8月3日発売)

取材・構成:井口啓子

■次回予告

次回のインタビューでは、最新単行本である『平太郎に怖いものはない』の舞台である広島取材についてのお話や、スケラッコ先生の作品の根底に流れる「モラトリアムな空気」の秘密についておうかがいしました!
インタビュー第2弾は6月27日(水)公開予定です! お楽しみに!

単行本情報

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