『足摺り水族館』panpanya Special Interview 【前編 1】

『足摺り水族館』panpanya Special Interview
本誌『このマンガがすごい! 2014』のランキング企画にて、「オトコ編」第14位にランクインしたのは、なんと一部書店のみの取り扱いだった『足摺り水族館』
今回、異能の新人panpanya先生と、『足摺り水族館』を刊行した出版社「1月と7月」の担当者さんに、じっくりとお話をうかがうことができた。今年度もっとも「?」な作品の実像に迫る!(後編は→コチラ

©panpanya 2013


panpanya

panpanya プロフィールコミティア(同人誌即売会)や自身のwebサイトなどで活動し、2013年の春に「楽園 Le Paradis」(白泉社)のweb増刊で商業デビュー。8月には同人誌『足摺り水族館』『ASOVACE』の収録作品を再構成した単行本『足摺り水族館』(1月と7月)を上梓。現在は同人活動のほか、「楽園 Le Paradis」本誌およびweb増刊で短編作品を発表中。


『足摺り水族館』 単行本概要

足摺り水族館おつかい中の子供が非日常の世界に迷い込む「完全商店街」、死者の町を描いた「冥途」、少女が自由研究で訪れた不思議な博物館を舞台とする「新しい世界」……。これら複数の短編作品に加えて、紀行文やイラストなども収録した作品集。詳しくは1月7月の特設サイトへ。


収録作品の構成だけで1年くらい悩みました

――『足摺り水族館』が『このマンガがすごい! 2014』の「オトコ編」第14位にランクインしました。まずは率直な感想をお聞かせください。

panpanya 「へえー」と思いました。

――けっこう、冷静に。

panpanya ただ、ほかにランクインした作品を見ると「これ(『足摺り水族館』)がランクインするの?」って思いました。ほかのマンガは「なるほど、これが×位か」と納得できるんですけど、この感じで(『足摺り水族館』が)14位に入るって、変じゃないですか?

――そんなことないですよ。票を入れた方が大勢いたから、この順位なんですよ。

panpanya そうなのかー。しかし(『足摺り水族館』を)売ってるところ、実際のところあんまり見たことないですからね、人に読まれてる実感が薄いですね、いまだに……。

――流通形態が少し特殊ですからね。一部書店のみの取り扱いだったマンガ単行本が、ランキング企画のトップ20にランクインするのは、「このマンガがすごい!」史上でも初めてのことです。今だと、どこで手に入れられますか?

1月と7月 とりあえず今は、Amazonさんでしたら、在庫が切れることはありませんね。

――『足摺り水族館』を出版した1月と7月さんは、どういった会社なのでしょうか?

1月と7月 アニメグッズなども扱っていますが、うちは普通に出版社なんです。ただ、大手のように取次[注1]を通さずに、書店さんとの直取引だけでやっています。

――もともと同人誌だった作品を1月と7月さんで商業単行本化したものが、今回の『足摺り水族館』だとお聞きしました。それまでの経緯をお聞かせください。

「新しい世界」よりpanpanya ことの起こりは漫画を描き始めたことからですが、知人のサークルがコミティア[注2]で同人誌を出すので「マンガ描かない?」と誘われたんです。その時に描いたのが「新しい世界」(単行本版『足摺り水族館』に収録)で、ちゃんとしたストーリーがあるマンガを描いたのは、それが最初でした。その後も継続して作品を発表していましたが、そのサークルがいつの間にか活動しなくなったので、そのままの流れでコミティアに個人でスペースをとって参加するようになりました。その際に、それ以前の作品をまとめたものが『ASOVACE』という本です。

1月と7月 私は「資料性博覧会[注3]というイベントの担当者さんから、「こういうおもしろい作家がいるよ」と教えてもらいました。それでpanpanyaさんの作品に触れて、「本を出しませんか?」と。最初は『ASOVACE』を書籍化しようと持ちかけたんです。

『ASOVACE』
panpanya これがその『ASOVACE』[注4]

――あ、すごい。手作りで和綴じなんですね。しかも分厚い! 普通に週刊の少年マンガ誌くらいの厚みがある。

panpanya 最初は『ASOVACE』を、っていう話だったんですけど、(担当者さんに)お会いしたときに同人誌版の『足摺り水族館』を見せたら……。

1月と7月 「あ、これスゴイ好き」と(笑)。

panpanya 単に過去作品をまとめた本を作るってだけだったら、正直ピンとこない話だったのですが、これ(同人誌版『足摺り水族館』)を気に入ってくれて、「ぜひ収録しましょう!」となったとき、これは間違いないものが作れると思いました。

同人誌版『足摺り水族館』

――同人誌版『足摺り水族館』の表紙[注5]、いいですね。これ、どうなってるんですか?

panpanya 表紙の一部を四角く切り抜いて、裏から写真を貼っています。その上にジェルメディウムという――アクリル絵の具に混ぜて絵の具の質感を変えるのに使ったりするものなんですが――それを盛っています。ジェルメディウムによってインクジェットのインクが多少にじむのと、透明の層の中に気泡が入り、表面に水面のような凹凸がでます。水族館の水槽を表紙に埋め込んだようなものにしたいと思って使いました。何日か紙を広げて乾かさないといけないので、少部数しか作れませんでしたが、とても気に入っている作品です。

――これは手製の同人誌ならではというか、商業出版の書籍で再現するのは難しいですね。本というだけでなく、オブジェとしてのおもしろさがあります。

1月と7月 過去の作品を単行本化するにあたって、最終的に同人誌版『足摺り水族館』のなかに『ASOVACE』収録の短編を織り込むような形で再構成しましたが、そこに落ち着くまでかなり時間がかかりました。

panpanya (担当者さんと)なんだかんだ1年くらいやってましたね。

――収録作品の構成だけで1年!?

panpanya 同人誌版はそれぞれ1冊の本として完成させたつもりだったので。これひとつが「物体」としての作品です、という。手作りで、この形で完成したから成り立ったものという意識があったので、同人誌版の中身をそのままなぞって作っても、ある意味で劣化コピー版になってしまいます。せっかく商業で印刷会社さんに刷って製本してもらうからには、その「ひとつの物体としてのマンガ作品」という考え方を損なわずに、手作りのよさとはちがう、工業製品ならではのよさを活かす形態に考え直す必要がありました。担当者さんに同人誌版『足摺り水族館』をお見せしたときのリアクションで、それができる、と思ったんです。

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