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『大逆転裁判』ディレクター・巧 舟氏×『福家警部補』シリーズのミステリ作家・大倉崇裕氏のスペシャル対談!【総力リコメンド】

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2015/07/08


ユーモアミステリの魅力

――お2人が好きなミステリ作品をおうかがいしたいです。

 僕は『亜愛一郎』シリーズ[注9](泡坂妻夫[注10]著)と『ブラウン神父』シリーズ[注11](G・K・チェスタトン[注12]著)が大好きなんですが、大倉さんの作品を拝読したら、『白戸修』シリーズの2作目と3作目のタイトルに、それぞれ「狼狽」「逃亡」というキーワードが入っているじゃないですか。あれは『亜愛一郎』シリーズを意識されてのことなんですか? aaichirounoroubai_s

大倉 僕も『ブラウン神父』シリーズと『亜愛一郎』シリーズは大好きなんですが、意識したわけではないんですよ。2作目、3作目をまとめるときに、タイトルを考えていて、たまたま「狼狽」と「逃亡」という言葉がしっくりきただけなんです。

 『白戸修』シリーズの1作目は「事件簿」だったのに、2作目から急に『亜愛一郎』シリーズの流れになったなって思っていました(笑)。

大倉 泡坂妻夫さんの作品はどれも大好きで、そのなかでもとくに『亜愛一郎』シリーズが好きですね。『逆転裁判』シリーズの1作目で「DL6号事件」[注13]という名称を使われているじゃないですか。それを見て、巧さんは泡坂さんがお好きなのかなって思ったら、何かのインタビューでそうおっしゃっているのを読んで、納得した記憶があります。私は『亜愛一郎』シリーズのなかでも、3冊目に収録されてる「歯痛の思い出」[注14]が好きなんです。亜さん、井伊さん、上岡さんと、名前が「あいうえお」から始まっているっていう、あのセンスが素敵で。

 「上岡菊けこさん……」っていって、「いや、(上岡)菊彦です」っていうやつですよね。

大倉 そうです。「亜さん井伊さん、上おかきくけこ……あら?」っていうくだりが、短編のなかに何度も出てくるんですよね(笑)。泡坂さんのそういった遊び心が大好きで、そういう意味では『逆転裁判』シリーズのキャラクターたちの、ヘタしたらだれかが死刑になるかもしれないという緊迫したなかで、キャラがほんの少し、絶妙にズレてとぼけている感じが私はすごくいいと思うんです。

 たしかに、泡坂さんのふんわりとしたユーモアのセンスは大好きですね。もともと、ヴァン・ダイン[注15]とかの有名な作品を中心に読んでいたんですけど、正直なところ、堅いとか読みづらいという気持ちがあったんです。そんななかで触れた、泡坂さんなどが書かれたユーモアミステリは入りやすくて、心地よさを感じていました。

大倉 そのユーモアセンスの影響が、『逆転裁判』シリーズのキャラクター造形に表れていて、すごく好きなんです。証人が出てきて、その証人が主人公に論破されてリアクションをとる時に、ボルシチが飛んでくるとか、必ず何かアクションが仕掛けてあるんですよね(笑)。巧さんにぜひお聞きしたかったのですが、脚本は基本的におひとりで練られているんですか?

『逆転裁判』シリーズの大ファンでもある大倉さん。ファンとしては、どのようにゲームのシナリオが作られているのかが気になりますよね!

『逆転裁判』シリーズの大ファンでもある大倉さん。ファンとしては、どのようにゲームのシナリオが作られているのかが気になりますよね!

 自分が関わっている作品はそうですね。もちろん関わっているスタッフに相談はしますけど、基本的にすべて、自分で書いています。

大倉 歴代のどの作品も、完成度がすごいですよね。しみじみと、こんなこと普通は考えられんな!と。ちなみに最初に弁護士ものをやろうと思われたきっかけは?

 『逆転裁判』の発想の大きなきっかけのひとつは、弁護士が主人公の『ペリー・メイスン』[注16]シリーズですね。弁護士が自分で捜査をすることの驚きがあって、そういう設定のゲームはなかったので、これは新しいだろうと思ったんです。そこからお話を作っていくことになるわけですが、お気に入りの矛盾ネタがいくつかあったんですね。証人が「骨付きステーキを食べた」っていってるのに「皿の上に骨が残ってない」とか。そういう細かいネタをまず4話ぶんのエピソードに配分して、それを中心に事件を構成していく、というやり方で物語を考えたんですけど……その矛盾ネタのストックがなくなってからが勝負でしたね(笑)。1作目で使いきったので、当時、2作目を作るのは無理だろうと思っていました。

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大倉 まったく同じです(笑)。『福家警部補』シリーズを書いていた時も、「何も持っていなかったというけれど、缶ビールの跡が残っている」とか、小ネタのストックが僕のなかにあって、当然1作目(『福家警部補の挨拶』「最後の一冊」所収)に入れたわけですよ。それで、こんなの買う人いないだろって思ったら、意外に買ってくれる人たちがいて、2作目が出せることになったんです。そこからはネタのストックがないし、ゼロからのスタートになって(笑)。

 まさにそこからがスタートですよね(笑)。

大倉 私は『逆転裁判』シリーズのシナリオのなかでは、とくに3作目が印象に残っていて。たとえば、葉桜院の吊り橋を使ったエピソード[注17]は、有栖川有栖[注18]さんの『双頭の悪魔』[注1]のような雰囲気があって素敵だなと。

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 おおっ! まさにそうなんですよ。あの事件のイメージの原点は『双頭の悪魔』ですね。

大倉 前半はスノーモービルの痕跡が雪についていたとか、ものすごい緻密で論理的な展開なんですよね。でも、そこから後半になると、西澤保彦[注20]さんの『七回死んだ男』[注21]のように、見ている人と中身が違うかもしれないとか、独特のSF的な設定のなかで展開する論理に変わるじゃないですか。

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 さすが大倉さん。ズバズバきますね(笑)。一時期本当に西澤保彦さんにハマっていました。大倉さんの著書をすすめてくれた友人が、『七回死んだ男』もすすめてくれて、西澤先生のSFミステリのシリーズを読んだことが、『逆転裁判』シリーズの世界に、いろいろな形で影響を及ぼしていますね。

大倉 霊媒の設定を取り入れつつも、ちゃんとひとつの世界が確立されていて、そのなかで事件を解決していくのがすばらしいです。

 ありがとうございます。でも『逆転裁判』の1作目を作ったときに、ユーザーの感想で「霊媒を使うのは本格ミステリとしてルール違反だ」というのがチラホラあって。それにちょっと、カチンときたんです(笑)。

大倉 カチンときて正解ですよ(笑)。

 1作目から霊媒の要素はありますけど、じつは、あえてミステリ部分には絡めていなかったんです。でも、2作目からは、霊媒を使っても本格ミステリがちゃんと成り立つんだぞ、と主張するために、霊媒をミステリに絡め始めました。

大倉 その世界のルールを最初に提示していれば、アンフェアじゃないですからね。

 そうです。本格ミステリは、フトコロが広いんだぞと(笑)。

大倉 今、小説では新本格というものがだいぶ変わってきてしまったんですが、そんななかでも、自分の好きな世界観が『逆転裁判』シリーズには入っていて、すごくワクワクします。

 ありがとうございます(笑)。すごくうれしいです。

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大倉 私が心配することじゃないかもしれないですが、いつもこの脚本を書くのはたいへんだなあと思いながらプレイしています。

 いえいえ。小説とは「たいへん」の方向が違うだけだと思います。たとえばゲームは、1年以上の長い時間をかけて制作するので、みんなでお話を磨きこんでいくことができますけど、作家さんはそうはいかないですよね?

大倉 そうですね。基本ひとりでやっていますし。

 なので、どっちがたいへんかというと、わからないですね。

大倉 今回の『大逆転裁判』で、陪審員の手元にある火が飛んで、天秤に入っていくシーンとかは、ゲームならではですよね。あのビジュアルだけで、ハートを鷲づかみされました。

 完全にイメージの世界ですけど(笑)。

大倉 そういう細かい演出まで「エンタメ」を意識されているの『逆転裁判』の魅力のひとつだと思います。

 ありがとうございます。『逆転裁判』シリーズはロジックがテーマのゲームですから、陪審員が感情に任せて火を飛ばしまくってもおもしろくないですよね。演出に見た目の派手さはありつつも、あくまでロジックで陪審員たちを説得するゲームになるように気をつけました。
ちなみに『大逆転裁判』に登場するホームズさんと龍ノ介くんの「共同推理」は、ホームズさんがちょっとズレた鋭い推理をしていて、それを龍ノ介くんが正すので、同じ手がかりから、2つの推理を考えなきゃいけない。企画書を書くのは楽しかったんですけど、実際に自分で考え始めると、これがなかなかたいへんで(笑)。今回のゲームの新要素には、とても頭を悩まされました。でも作っていて楽しかったですね。

――では、最後に読者へのメッセージをお願いします。

大倉 私は『逆転裁判』をプレイしていて、本筋もさることながら、ゲームのクリアには直接関係ない部分の細かいこだわりにも楽しませてもらっています。なので、みなさんには本筋のクリアを急ぐのではなくて、ゲームを細部まで楽しんでほしいんですね。攻略本とか攻略サイトに頼らず、隅々まで自分で突きつめてプレイしていくと、より充実した体験ができると思います。片っぱしから怪しいキャラクターを「揺さぶる」とか、そのくらいの心意気が必要ですね。何度キャラクターを有罪にしてもいいので、時間をかけて、今までの『逆転裁判』シリーズ同様の作り込みをじっくりと堪能してほしいです。飛ばしちゃうのはもったいないですよ。

 僕が目指しているのは、事件がロジックのもと解き明かされていき、いくつもの伏線がはらりと溶けていく瞬間の美しさと驚きなんです。そんなロジックを扱う楽しさの一端を、今回の『大逆転裁判』で感じていただければと思います。

『逆転裁判』シリーズでおなじみの「異議あり!」ポーズをする巧さんと大倉さん。

『逆転裁判』シリーズでおなじみの「異議あり!」ポーズをする巧さんと大倉さん。

――巧さん、大倉さん、ありがとうございました!


  • 注9 『亜愛一郎』シリーズ 作家の泡坂妻夫が手がけたミステリシリーズ。品のいい美貌の持ち主でありながら、一風変わった性格を持つ亜愛一郎が、その思考力をもってさまざまな難事件へと挑んでいく。
  • 注10 泡坂妻夫 日本の推理作家。幻影城新人賞に「DL2号機事件」が佳作入選し、1976年にデビュー。『亜愛一郎』シリーズ、『曾我佳城』シリーズなど、緻密な推理を描きつつ、絶妙なバランスでユーモアを盛り込む作風が持ち味。
  • 注11 『ブラウン神父』シリーズ G・K・チェスタントンによるミステリシリーズ。イギリスのカトリック司祭ながらもアマチュア探偵を行うブラウン神父が、その鋭い直感と洞察力で事件を解決していく。
  • 注12 G・K・チェスタトン イギリス出身の批評家・作家。詩集で文壇デビューし、批評、随筆など、作家以外の文筆活動でも活躍している。知り合いの神父であるジョン・オコナーをモデルにブラウン神父を生み出した。
  • 注13 「DL6号事件」 「DL6号事件」 『逆転裁判』で発生した事件で、主要な登場人物の運命を大きく狂わせた。名前の元ネタはもちろん、泡坂妻夫のデビュー作である「DL2号機事件」。
  • 注14 「歯痛の思い出」 『亜愛一郎』シリーズの1編で、泡坂妻夫の言葉遊びのセンスが炸裂している一作。
  • 注15 ヴァン・ダイン アメリカの推理作家。『ベンスン殺人事件』など、名探偵ファイロ・ヴァンスが登場する長編を多く手がけ、アメリカのミステリ界隈を大きく盛り上げた。
  • 注16 『ペリー・メイスン』シリーズ アメリカの作家E・S・ガードナーが生み出した、法廷弁護士ペリー・メイスンの活躍を描いた推理小説シリーズ。小説だけではなく、TVドラマシリーズや映画も製作されている。
  • 注17 葉桜院の吊り橋を使ったエピソード 『逆転裁判3』に登場する。ネタバレになるので、詳しくはゲームをプレイして確かめよう!
  • 注18 有栖川有栖 日本の推理作家。1989年、江戸川乱歩賞に投稿した『月光ゲーム Yの悲劇’88』でデビュー。代表作に、有栖川有栖がワトソン役として登場する「作家アリス」シリーズ、「学生アリス』シリーズなど。
  • 注19 『双頭の悪魔』 「学生アリス」シリーズの3作目。陸の孤島となった2つの村に起きる事件を解決するため、英都大学推理小説研究会のメンバーが奔走する。
  • 注20 西澤保彦 日本の推理作家。1995年に『解体諸因』でデビュー。『人格転移の殺人』、『瞬間移動死体』に代表されるような、SF的な設定と本格ミステリの同居した作風が特徴。
  • 注21 『七回死んだ男』 西澤保彦の代表作のひとつ。突発的に同時間のループに巻き込まれる能力を持った主人公が、正月に不審な死を遂げた祖父を救うために奮闘する物語。

取材・構成:山田幸彦


『大逆転裁判』公式サイト

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