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【日刊マンガガイド】『右足と左足のあいだ』 雁 須磨子

2014/06/25


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『右足と左足のあいだ』
雁 須磨子 祥伝社 \742
(2014年6月7日発売)


新婚早々突然EDになってしまった夫との関係を描く表題作ほか、計7編を収録した短編集。
介護センターで働き、昔からみんなに「エラいね」といわれる女の子や、同棲中の彼氏と微妙なかみ合わなさを抱える子、モテない自分への葛藤と卑屈さがごちゃ混ぜになった35歳など、さまざまな境遇の主人公が登場するが、共通して見られるテーマは「口に出せない違和感」だ。

怒ることも責めることもできない夫のEDに対し、ずぶりずぶりとため込まれていく苦しさ。喧嘩するほどでもないし、したくもないけれど、同棲中の彼氏にずっと残り続けるかみ合わなさ……。
彼女たちはみな、相手との関係を悪化させたくないがために口をつぐみ、結果、そのディスコミュニケーションによって関係に対する違和感、不満を広げてしまっている。

だが、雁 須磨子が描く主人公たちがおもしろいのは、いずれの作品も、最後までその違和感や不満を直接口にしないままであるという点だ。
不満をぶつけ合うことで関係を打開するというのは、おそらく正しいし、物語としてもわかりやすい。だが、現実にはなかなかできないことでもある。

「エラい」といわれることに微妙な違和感を感じていても、それを口に出して怒るのは難しい。だけど、「エラいエラい」といわれるたびに小さなストレスがたまっていく。
雁 須磨子はそういう口に出せないままの違和感を、わかりやすく爆発させず、自分のなかで(あるいは第三者との些細な会話のなかで)わずかに氷解する瞬間を描いている。

決してドラマチックではない日々に埋もれた、心の動きを丁寧にとらえる、繊細な作品集だ。



<文・小林聖>
主にマンガについての記事などを手がけるフリーライター。マンガ情報サイト・ネルヤ主催。年間だいたい1000冊くらいマンガを買ってます。
「nelja」

単行本情報

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