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ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス』対談インタビュー 古代ローマに話題の不動産王・トランプ氏が登場!? 「とりマリ」コンビが魅せる「多面性」の醍醐味

2016/09/18


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、ヤマザキマリ先生ととり・みき先生!

大ヒットコミック『テルマエ・ロマエ』のヤマザキマリと、理系ギャグSFマンガ家としてカルト的人気を集めるとり・みきによる、歴史伝奇ロマン『プリニウス』。
対談前編では、その主人公である古代ローマの知識人・プリニウスの魅力、自然災害や政治陰謀に揺れる古代ローマを通じて、現在の日本を照射するという歴史・SF的視点について大いに盛りあがったが、
第2段ではさらに、前代未聞の合作エピソードから、『プリニウス』の今後まで、マンガ界きっての論客にして知の巨人である御二方ならではの縦横無尽なトークとともにお楽しみあれ!

著者:ヤマザキマリ

1967年4月20日東京都出身。
1984年に渡伊、フィレンツェの国立アカデミア美術学院に入学 美術史・油絵を専攻。1997年に漫画家としてデビュー。
2010年古代ローマを舞台にしたマンガ『テルマエ・ロマエ』で2010年度漫画大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞、世界8カ国語に翻訳される。著書に『モーレツ!イタリア家族』『ルミとマヤとその周辺』『ジャコモ・フォスカリ』『スティーブ・ジョブズ』等。文筆作品では『リスボン日記』『テルマエ戦記』『望遠ニッポン見聞録』『男性論』など。

著者:とり・みき

1958年2月23日熊本県生まれ。
1979年「少年チャンピオン新人マンガ賞」応募作の『ぼくの宇宙人』が佳作第一席に入りデビュー。以後ギャグマンガをメインにしながら、エッセイコミックやシリアスなSF・ホラーものも手がける。
1994年『DAI-HONYA』1998年『SF大将』で星雲賞、1995年『遠くへいきたい』で文春漫画賞を受賞。
主な作品に『クルクルくりん』『愛のさかあがり』『石神伝説』『冷食捜査官』等がある。マンガ以外に『とり・みきの映画吹替王』『街角のオジギビト』などの研究書も。劇場版アニメ『WXIII機動警察パトレイバー』では脚本も担当。

まさに「あ・うん」の呼吸!
表現に制限がない「とりマリ」合作のおもしろさ

――合作をするうえで、水木しげるさん(前回のインタビュー参照)とか、ベースとなる共通言語の存在は大きいですか?

とり やっぱり余計な説明が要らないんで。ヤマザキさんはマンガにかぎらず、歴史や地理の知識、アニメとか映画とか音楽とか小説とか……いろんな基礎教養が僕自身が好きだったものと共通してますから、仕事をしていてやりやすいですよね。

ヤマザキ プリニウス一行がローマの街に初めて入っていくシーンは、『トムとジェリー』で初めてニューヨークに入っていくシーンの感じでお願いね、と言っただけでどんな表現を意味しているのかが通じるのは大きいですよね。

とり 悪役の顔は、リチャード・キール[注1]とバート・ランカスター[注2]を足して2で割った感じとか言うと、ちゃんとそのとおりで返ってきますからね。すばらしい。

ヤマザキ 私も大好きな脇役俳優だから、おお、これは描きごたえがある!って反応してしまいましたが、だぶんそこが大事なとこではないかと。さかのぼれば、私がツイッターをやってた頃に「大好きなんです」とつぶやいた、ヘンリー・マンシーニ[注3]のかなりマニアックな音楽に、「あ、これ僕の心の音楽!」ってとりさんが反応してくれたり、似たものを嗜好しているなというのは多岐のジャンルに渡ってありますよね。

とり しかも、期待どおりのレベルではなくて、こちらが思いもよらなかったことも期待を越えて付け加わって返ってきますからね。

ヤマザキ それは私も同じ。さっきの幽霊のシーン(第4巻24話について。前回のインタビュー参照)もそうだし、プリニウスの部屋のシーンで、いろんなものが置いてあるんだけど、ラフを描くかわりに「サルの乾いたの」って文字のみで指示しておいたら、自分が思ってた以上に乾いたサルの描写が返ってきて感動しました(笑)。

怪しげなものであふれるプリニウスの書斎。とり先生の筆が光る!?

怪しげなものであふれるプリニウスの書斎。とり先生の筆が光る!?

――セッションのような、ライブ感が詰まってますね。

ヤマザキ そうなんですよ。インプレヴィゼーションみたいな、こう来るか~って。良い意味でのライバル的触発というのか。

とり コール&レスポンスの感覚でやれるのは、たぶん、2人とも音楽好きだからですね。お互いがまずだれよりも最初に相方を驚かせてやろうという思いがあるので。そこがやってる方としてもエキサイティングです。こっちがほんの思いつきで入れたものを想像以上に膨らましてくれたり。僕が最初なんの気なしに描いた港の猫とかそうですよね。

ヤマザキ 猫は最初は地震でみんなが逃げていくシーンに、とりさんがさりげなく描いただけなんです。でも、そこに私が反応して、プリニウスに猫を飼わせることになった。プリニウスが猫を飼っていたという事実はないんですけど、これまでさんざん猫マンガに否定的だったとりさんが、猫マンガを描いたらおもしろいなって盛りあがっていました。

プリニウスが旅のおともに連れている飼い猫・ガイア。危機回避の幸運の猫!

プリニウスが旅のおともに連れている飼い猫・ガイア。危機回避の幸運の猫!

――人間だけでなく、猫の視点が持ちこまれるのが『プリニウス』の世界観ですよね。猫の目で世界を捉えたショットも独特で、すごく映像的なカメラワークを感じさせます。

ヤマザキ 私は猫が大好きで子どもの頃から絶やさずずっと飼ってますし、岩合光昭さんの『世界ネコ歩き』を観ていて、「こういう猫目線でローマ世界を描くのもいいかもね」ってとりさんと話してたんです。あと2人とも映画が大好きだというのも大きいですね、私なんかはマンガがほぼ映像的視点のものだと思ってるので。

とり 自分ひとりだったら猫マンガとか絶対に描かないですけど、これは半分ヤマザキさんですから、そうすると猫マンガならではの視点とか楽しみ方の提案を自分からも出せる。

――2人でやることで逆に制限がなくなるのがおもしろいですね。

とり そうですね。自分名義ではできないことも、合作では楽しんでできる。

ヤマザキ でも、それでエスカレートしていって、自分たちの首をしめる方向になっているのも事実です。2人でやれば作業が半減するって喜んでたのはなんだんだって。半減どころか倍以上にはなってますね。なのでとりさんの執拗に細かいディティールに拘った描き方を見ていると、「時間もないしもういいじゃん!」ってつい思ってしまうわけです、ギリギリまでわけわからないものを付け加えてたりするし。「今どのへんのページを作画中か、怒らないから正直に言ってください」って言ったら「心配しないで大丈夫です」という返事しかこない。つまり答えになってない(笑)。

――ちなみにヤマザキさんは普段、イタリア在住ですから、そういう会話とか細かい確認作業はスカイプで?

ヤマザキ スカイプですね。スカイプというとテレビ電話会話みたいなものを皆さん想像されるでしょうが、音声ではなく、ほぼチャットで文字でのやりとりが基本ですね。私もとりさんも電話嫌いだし、文字で残るから後で確認もしやすいですしね。

とり 打ちあわせの作業は論理的に詰めなければならないのでテキストのほうがあってるんですよね。でも僕もマリさんもテキストを打つのがまったく苦にならないタイプの漫画家なので、そこはなんの問題もなく。

同じ現場で作業できないからこそ、お互いを信頼しあい、マンガをつくりあげているお2人。

同じ現場で作業できないからこそ、お互いを信頼しあい、マンガをつくりあげているお2人。

――読者からの反響はどうですか。単独ではなかったような声が返ってきたりします?

ヤマザキ どうだろう。私はツイッタ―とか苦手で最近見てないんで……。

とり 僕は読者の反応見るのが大好きなんですよ。エゴサーチして、ヤマザキマリファンの「とり・みきってだれ?」みたいなのが、活力になる(笑)。あと、僕のチャンピオン初期とか『遠くへいきたい』みたいな作品しか知らない人が混乱しているのも楽しいし、マリさんが描いてるのに「この部分はとり・みきだろう」って間違った推測を読むのも楽しいですね。

ヤマザキ みんな、この部分はヤマザキマリが描いたのかとか、とり・みきが描いたんじゃないかとか、どうしても見極めたくなるみたいなんですけど、それは本望ではなくて。2人の名前じゃなく「とりマリ」とか、ユニットとかにすればよかったねって言ってるんですけど、実際、無意識のうちに私がとりさんの線の太さやタッチにあわせて描くこともありますから、それぐらいの融合度に自然になってきてますね。

――本当に、いろんな意味で既成のマンガという枠を超えた作品で、ある意味、掲載誌が「新潮45」[注4]だからこそ可能だった気もしますね。

ヤマザキ そうですね。いわゆるメジャー漫画誌だと、まず今のペースでは間に合わないし。普段マンガを読まない人も読んでくれている手ごたえはあるかも。


  • [注1]リチャード・キール 『007』シリーズで鋼鉄の歯を持つ悪役ジョーズを演じた、ザ・悪役俳優。身長2m18cm、体重143kgという巨漢で知られる。
  • [注2]バート・ランカスター 1950-1980年代の長きに渡ってハリウッドで活躍、アメリカを代表するタフガイ俳優。代表作は『OK牧場の決斗』『大空港』『ダラスの熱い日々』。
  • [注3]ヘンリー・マンシーニ 作曲家。『ティファニーで朝食を』『刑事コロンボ』『ピンクパンサー』など、多数の映画音楽を手がけたことで知られる。
  • [注4]「新潮45」 新潮社から刊行されているノンフィクション月刊誌。ゴシップ誌とは一線を画する、硬派でジャーナリスティックな視点による取材記事や文化評論に定評がある。

単行本情報

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