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第7回『このマンガがすごい!』大賞 受賞記念インタビュー 歩『ECHOES』 大賞史上最高の評価を得たトランスジェンダー×バスケの心地よい融合

2016/12/09


人は個々に何もかも違う。だけど目的を通じて結びあえる!

——飛鳥をまるで心を開かない子という設定にしたのはなぜですか?

 当初は、クール系でバスケがうまいキャラという設定だけがあって。その性格をもとに、生い立ちがだんだん頭の中にできていったんです。
ぼく自身が、すごく自分を閉ざしていた時間が長かったので、その要素が少し入っているかな。ぼくは人が信頼できないとかではなかったですが。でも、バスケをやるまでは人とちゃんと関わることができなかったわけですから。飛鳥を通して、人間が少しずつ開いていくところを描きたいなと思いました。

固く閉ざされていた飛鳥の心の扉が、少しだけ開いた瞬間。

固く閉ざされていた飛鳥の心の扉が、少しだけ開いた瞬間。

——毎日同じところに来てバスケをやっているから、絆ができていくのは先生ご自身が実感したことですね。

 描いてみて気づいたんですが、性格もバスケに対する考え方もバラバラな子たちで。バスケットを通してだけつながっていて、バスケを通して絆が深まってる子たちなんだと。

——最終的にみんなが飛鳥を受け入れられるのは、結局彼女がだれよりも練習してる姿を見てるからなんでしょうか。

 そうですね。特にキャプテンの金子がこいつを気にくわないと思ってたわけですが、彼女が練習してるのも見ているし、とっくに認めてる気持ちもある。だからこそムカつくのかも。

”猛獣”金子の本領発揮!! ロッカーが壊れる勢いです!

”猛獣”金子の本領発揮!! ロッカーが壊れる勢いです!

——本当はずっと認めたかったんでしょうね。金子のキャラクター、すごく好きですよ。マンガではキャプテンって人格者が多いですけど、部をまとめられる高校生なんてそうはいない。

 金子も、長い年月をかけてだんだんできていったキャラクターです。口は悪い、力が強くて乱暴みたいなわかりやすいアウトラインが先にあって。でも、じつは一番弱いんですよね。

——あんなに気が強そうなのに、試合中に泣いちゃったりするところがかわいいです。

 樹里と絆が強いんですよね。癒やし系の樹里とは、性格は正反対なんだけど。

——どの2人をピックアップしても、それぞれ違う空気間が描かれているのも本作の魅力だと思います。

 1対1でだれとだれを切り取っても関係性が違うというのは、描いてみてわかるおもしろさでした。青は元気なキャラですが、樹里と2人になると、ちょっとかわいい感じになる。

ジュリ・オアシス!!

ジュリ・オアシス!!

——いいなあ、樹里先輩……。先輩ってだいたいこわくて近づきがたいんですが、まれにこういう気さくでやさしい先輩いますよね。

 樹里はキャラデザイン的に「全部丸い」という感じがコンセプトです。
自分自身、先輩によくしてもらった思い出も入ってますね。練習が終わったあとに「きょう、がんばってたね」と声かけてもらったり。
金子と葉月の組み合わせも案外おもしろいなと。葉月は先輩の金子にもはっきりモノをいうし……金子が葉月の髪の毛ひっぱったりするのも描いてて楽しかったです。

歩先生オススメの金子&葉月のじゃれあいシーン!

歩先生オススメの金子&葉月のじゃれあいシーン!

——ちょっとした動作からも関係性が見えますね。先生ご自身、もっとも筆が乗るキャラクターは?

 やっぱり青と飛鳥です。ペン入れをしていても、この2人のシーンは一番気合いが入ります。特に、この物語のカギになる、青が孤立する飛鳥をフォローしにいく場面などは。

青の熱い想いが、飛鳥の頑なな心を溶かしていく。

青の熱い想いが、飛鳥の頑なな心を溶かしていく。

読み手のフィーリングを大事にしたいから、説明的なモノローグはできるかぎり減らしています

——それにしてもバスケシーンの迫力、臨場感もすごいです。試合を観にいったりもするんですか?

 高校生の大会を見にいったりしています。Youtubeで試合の動画を見てスケッチしたりも。自分は引退して以来やってないですが、作画中にボールは買ってきました。ボール持った時の手ってこんな感じ、というのが見ないと描けなくて。

——フェイントなどもしっかり描かれていて、素人にも「あ、フェイントってこうなってるんだ」とわかるし、だからこそそのプレイのすごさもわかる。試合中、サイレントに近くなってるところも多いですね。説明的なモノローグが徹底して排除されている。

飛鳥のシュートフェイントにあっさり騙される青。 青、がんばれ!

飛鳥のシュートフェイントにあっさり騙される青。 青、がんばれ!

 それは意図的にやっています。
選手の心境の描写や観客のガヤなどは少年マンガだったらもっと入れると思うんですけど。ぼくが想定している読者層が中高生から大人までということもあって、あまり説明過多にしたくないなと。
読み手のフィーリングを大事に読んでほしいんです。モノローグを入れるべきか悩んだ箇所もありますけど。

——たとえば6話で、飛鳥が金子に初めてパスを出すくだり。ここは2見開きにわたってサイレントです。心境の補完がいっさいなしで、その後に、金子が今までの軋轢なんてなかったように飛鳥に声をかけるのがいい。

 「応えあう」物語にしたかったんです。『ECHOES』というタイトルもそこからつけたもので。パスを出してくれた飛鳥に金子が応え、そこからまた波紋が広がっていくような構図を描きたかった。

——金子みたいな性格ならこんな時、うれしさを表現したりはしないわけで、このセリフになる。でも金子なりのやり方で気持ちを通わせているのがよくわかってグッとくるんです。先生が特にお気に入りの場面は?

 最後に、飛鳥が青に「ありがとう。」というシーン。飛鳥のこの表情が一番描きたかったんです。
心を閉ざしていた飛鳥が、どうやったらこの笑顔に到達するんだろうと逆算しながら、全体のネームを修正していきました。この顔になるためには青だけじゃなくて、他のプレーヤーとも通じあわないとダメなんだと途中で気づいて直したり。
この場面をもとに、話ができていったところがあります。

echoes

『ECHOES』
歩 宝島社 ¥700+税
(2016年12月10日発売)

取材・構成:粟生こずえ

単行本情報

  • ECHOES Amazonで購入

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