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『この世界の片隅に』(こうの史代)ロングレビュー! 女優・のんが演じるヒロイン・すず――戦時下の広島・呉で見つけた“ささやかな日常”

2016/10/08


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本作ではさまざまな表現技法が駆使されている点も見逃せない。

たとえば作中に登場する鷺は、実際に鳥の羽根を用いた羽ペンで描かれている。
また、ある回では、口紅によってマンガ本編が描かれたりもする。このように、描くモチーフと画材を対応させるような試みがたびたび用いられており、話の内容と絵が、そのエピソード特有の雰囲気を醸成するのに役立てられているのだ。

単行本ではモノクロのためわかりづらい、口紅で描かれた原画。公式アートブックではカラーで掲載されているので必見!

単行本ではモノクロのためわかりづらい、口紅で描かれた原画。公式アートブックではカラーで掲載されているので必見!

「第35回 20年7月」以降、とある理由から、作者こうのはすべての背景画を利き手ではない左手で描くようになるが、それももちろんストーリーと照応している。
そのあたりの事情を思案しながら読み進めると、より主人公の心情に寄り添うことができるだろう。

ストーリー的な伏線の張り方もおもしろい。作中で出会った人、手に入れた物、会話の内容は、いずれも単発のものではなく、作中のどこかで再登場を果たす。
読み返すたびに新しい発見ができ、そうした多層性によって作中世界がより立体的なものとして感じられるようになっている。

この作品で描かれた世界の外側には、もっと広大な世界が広がっているのだ。作中で描かれた世界は、広い広い世界のなかの、ほんの「片隅」なのだ。そうした広がりを実感できる。

この世界の片隅で寄りそいながら暮らす、すずと周作。そして、毛むくじゃらの手の正体は……?

この世界の片隅で寄りそいながら暮らす、すずと周作。そして、毛むくじゃらの手の正体は……?

主人公すず個人の生活史やファミリー・ヒストリーを縦糸とし、そこに戦争という大きな物語を横糸としてクロスオーバーし、『この世界の片隅に』という物語を織りなしている。
そこで描かれる絵模様は、ミニマムであるが、現代に生きる私たちとも地続きな、普遍的なものなのだ。

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作者の意図と“たくらみ”に身を委ね、私たちもまた、この世界の片隅に生きる喜びを見出していこう。そんなポジティブな気持ちにさせてくれる作品である。


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片渕須直監督による劇場アニメの設定原画、設定資料などの関連資料や、原作マンガのカラー原画グラビア、著者・こうの史代先生による原作マンガ解説、さらには主演・のんさん(すず役)インタビューなどスペシャルな特集が盛りだくさん!!

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『「この世界の片隅に」公式アートブック』
宝島社 ¥2300円+税(2016年9月14日発売)



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

単行本情報

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