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『ギガタウン 漫符図譜』 こうの史代 【日刊マンガガイド】

2018/02/14


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ギガタウン 漫符図譜』

  

『ギガタウン 漫符図譜』
こうの史代 朝日新聞出版 ¥840+税
(2018年1月19日発売)


劇場映画『この世界の片隅に』が、2016年11月の公開開始から1年以上を経た今年2月、全国90ものイオンシネマでの大規模上映がスタートした。
また、『夕凪の街 桜の国』NHK広島放送局開局90年ドラマとして、2018年夏にNHK総合テレビでの放映が決定している。
あいかわらず過去作品のメディア露出が好調なこうの史代だが、今年1月には最新作『ギガタウン 漫符図譜』がリリースされた。

本作は、国宝「鳥獣人物戯画」(いわゆる「鳥獣戯画」)がモチーフになっている。
「鳥獣戯画」は、甲・乙・丙・丁の全4巻からなる絵巻物で、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて、複数の作者によって描かれたものだとされている。その内容は、当時の世相を反映して動物や人物を戯画的に描いているのが特徴的だ。
特に有名なのが甲巻で、だれもが一度は目にしたことのある、あの特徴的なタッチの兎や蛙や猿が出てくる。墨一色で描かれていたり、右から左へと読み進めていったり、現在のマンガにも共通するような表現技法を用いていたりすることから、「日本最古のマンガ」と表現されることも多い。
『ギガタウン 漫符図譜』は、「鳥獣戯画」タッチの兎、蛙、猿が主要キャラクター(兎=お調子者のみみ、蛙=クールなあおい、猿=頑張り屋のきい子)として登場し、彼らの人間さながらの日常生活をユーモアたっぷりに4コママンガで描いている。
こうの史代ならではの、日常のふとした出来事に向けられるほんわかとした視線は健在で、動物キャラ(擬人化の逆?)だからこそ、その愛らしさが際立つ。

また、『ギガタウン 漫符図譜』のもうひとつ大きな特徴として、漫符がテーマになっている点があげられる。
漫符とは、マンガ特有の表現記号のことを意味する。
『サルでも描けるまんが教室』(相原コージ・竹熊健太郎)で提示された言葉とされており、たとえば「汗(の絵)」や「♪(音符)」などの記号を用いて、登場キャラクターの感情や感覚を視覚化する表現技法全般を指す。
『ギガタウン 漫符図譜』には合計104本もの4コママンガが収録されており、1本ごとに異なった漫符がモチーフになっており、それぞれの漫符について説明文が付記されている。
たとえば「水滴」の場合は、説明文として
「①水滴。濡れている状態。②(人物等に付く場合)汗あるいは涙。転じて、実際の汗や涙ではなく、汗や涙の出る心理状態(申し訳なさや悲しみ等)を表す場合もある。」(本編より引用)
と書かれており、4コママンガは水と汗の漫符を用いた内容になっている。
つまり辞書における「用例採集」のような体裁でもあり、作品全体が漫符事典にもなっているのだ。「マンガ表現における博物事典」的な性格を持った1冊といえるだろう。

マンガはあらゆるものを題材とし、表現してきた。
よりリアルさを志向する作品のなかには、漫符や描き文字でのオノマトペ(擬音語、擬態語)といった「マンガっぽい技法」をあえて用いない場合も多い。
しかし、『ギガタウン 漫符図譜』で数々の漫符を見ていくと、マンガはいかに多くの表現技法を活用してきたか、その「文化としての豊かさ」を再認識するはずだ。
そしてまた、「鳥獣戯画」や「4コマ」のようなデフォルメ表現と漫符の相性のよさにも気づく。「鳥獣戯画」「4コマ」「漫符」といった3つの要素を組みあわせて題材にするセンスの良さに、あらためて著者の非凡さを感じつつ、そうした理屈っぽい部分はさておいて、キャラクターたちの見せる愛らしい姿にトキメキを感じずにはいられない。



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

単行本情報

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