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「こんな時代だからこそ読むべきミリタリーマンガ」ベスト3 戦記ライター・松田孝宏さん【目ききに聞く】

2014/12/02


宮﨑駿監督の集大成ともいえるアニメーション大作『風立ちぬ』公開、そしてブラウザゲーム『艦隊これくしょん』の大ヒット……と、過去の作品群とは異なるアプローチでミリタリーをあつかったエンターテイメントに注目が集まっている昨今。もちろん、マンガも例外ではありません!

今回は、多数の戦記本の執筆・編集に関わり、「幼少時から現在にいたるまで、戦記やミリタリーをテーマとしたマンガには、無意識にアンテナを張り続けてきました」と語る、ライター/編集者の松田孝宏さんに、オススメのミリタリー関係のマンガを選んでいただきました。
正統派の戦記モノから、いわゆる「萌え」の要素を前面に出した作品まで……。こんな時代だからこそ読むべき、多種多様な作品が揃っています!

[※2010年から2014年10月に発売されたマンガ単行本のなかから選出をお願いしています]

松田孝宏さんイチオシの3作品!

『海の王者 戦艦大和』松本零士/本そういち ほか

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『海の王者 戦艦大和』
松本零士/本そういち ほか 実業之日本社 ¥556+税
(2014年7月29日発売)

日本という国でミリタリーの世界へ飛びこむには、いつの時代になっても「大和(と零戦)」は基本中の基本です。

このきわめて良質なアンソロジーは、小学校の頃に1冊丸ごと模写を試みた(そして数ページで挫折)、『ああ戦艦大和』(原作:山梨賢一、漫画:阪本誠一)を最厚のボリュームとして、松本零士、本そういち、かきざき和美、上田信、飯島ゆうすけ、南村喬之といった、戦記画・戦記マンガの第一人者たちが名を連ねています。
絵柄もお話も好みを見つけられると思いますし、ドキュメントと架空戦記に分けコラムを挟みこんだ編集で誰にでも楽しく読めることでしょう。

個人的な思い出ながら、かきざきさん画、三木原慧一さん原作の『戦艦大和建造』、飯島さん画、中里融司さん原作の『鋼鉄の戦乙女』は、20世紀も末期の「コンバットコミック」(日本出版社)が初出で、当時の編集長だった自分が執筆をお願いしたものです。なにより、故人となられた中里さんと飯島さんの作品が改めて流通するのは本当にうれしいことです。

ミリタリーに興味を持ち、史実、萌え、はたまた模型やゲーム、どの方向に進むにしても、まずは轟砲一発、元気一杯に大和からはじめていきましょう。



『紫電改のマキ』野上武志

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『紫電改のマキ』第2巻
野上武志 秋田書店 ¥562+税
(2014年8月20日発売)

野上武志さんといえば、田村尚也氏によるライトなファンのための戦車ガイド本『萌えよ!戦車学校』のイラストにより、「萌え+戦記」を一躍世に広めたことで知られます。
その後も精力的な執筆を経て現在に至り、『ストライクウィッチーズ』『ガールズ&パンツァー』など、いわゆる「萌えミリタリーアニメ」のスタッフやコミカライズでも名を連ねています。

現在は海兵隊が舞台の『まりんこゆみ』と同時に、局地戦闘機を扱った『紫電改のマキ』を連載中で、もはや陸海空すべてのフィールドに野上マンガありという活況です。
今回は、個人的な好みもあって『紫電改のマキ』を推したいと思います。会話のできる局地戦闘機・紫電改と、搭乗するのが女子高生・羽衣マキという世界は、どちらかといえばミリタリーというよりファンタジーかもしれません。最近は、ややもするとヤンキーマンガの様相も呈しており(笑)、ミリタリー要素を気にせず「マンガ」としても楽しめるのは野上氏ならではです。

「とにかくミリタリー味のするマンガをなんでもいいから味わいたい、だけどしっかりとダシが利いたものを」……などいう贅沢な方は、きっと野上マンガが口に合うことでしょう。



『この世界の片隅に』こうの史代

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『この世界の片隅に』前編
こうの史代 双葉社 ¥590+税
(2011年7月21日発売)

女性作家のマンガを代表して、戦時下の呉に嫁いだ女性・すずの視点で、当時の広島を描いた本作を推します。

改めて一読したいま、遊女・白木リンの「誰でも何かが足らんぐらいで この世界に居場所はそうそう 無うなりゃせんよ」という一言が頭から離れません。すずも「何か」が足りなくなるのですが、すずと夫・周作の迎える結末は「よし!」と膝を打ちたくなるものです。
軍艦好きには、思いもよらぬ局面で登場の重巡洋艦「青葉」にもしみじみと感動しました。また、呉の住民が軍事機密だった「大和」を知っているのを描いたマンガは、本作が初ではないでしょうか?(当時、口にしないのが暗黙の了解だったようです)



余談になりますが、森川久美さんによる一連の中国を舞台とした作品群、『蘇州夜曲』『南京路に花吹雪』『Shang-hai 1945』(いずれも入手困難ですが)もお勧めです。
ある作品で、物語の重要人物が「スリガオ海峡」で駆逐艦「山名」(史実の「山雲」か)艦長として戦死と伝えられます。かの地で、日本艦隊がいかに過酷な戦闘を行ったか知っていると、心臓をわしづかみにされたような感慨を抱くでしょう。



ご協力者紹介:松田孝宏

1969年東京都生まれ。

編集プロダクション勤務時代よりミリタリー、娯楽小説、アニメ、特撮などの書籍・記事を手がける。
現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動。

2014年はムック『日本海軍「艦これ」公式作戦記録』(宝島社)もお手伝いした。

プロフィールイラスト:Toy

単行本情報

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