『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』第5巻
柳内たくみ(作)竿尾悟(画) アルファポリス \700+税
(2014年9月22日発売)
突如、銀座に開いた異世界の門。大勢のファンタジー風の兵士が、侵略せんと押し寄せる。
自衛隊が即介入し、彼らを撃破。剣と現代兵器では、火力的に勝負になるわけがない。
ゲートの向こう側に何があるのか。オタクでぼんくらな自衛隊員・伊丹耀司をはじめとした日本の自衛隊は、ゲートを通って剣と魔法の世界、通称「特地」を視察することになる。
作中で日本人独特の心理、「人道的」な考え方を、異世界でシミュレートしているのがおもしろい作品だ。
相手に対して礼儀を払う。話し合って平和的に解決する。
民間人を殺す気も侵略するつもりもない。それより遊びたいし恋をしたいし、美人エルフを見たい。敵対してくる兵士には容赦しないけど、苦しんでいる民間人がいたら、できる範囲で助けるだろう。日本に入ってきた捕虜を、奴隷にしたり身代金を要求したりするつもりもない。
向こうの住人はあっけに取られる。圧倒的な武力を保持しているにもかかわらず、自分達を蹂躙し征服しないのは、彼らの常識ではありえない。
親切な行動に、特地の住人は「守ってくれる緑の人(迷彩服だから)」と慕うようになる。一方、自衛隊員も、特地の様々な人種との生活を楽しみ、またたく間に仲良くなる。
自衛隊 in ファンタジー世界のワクワク感に、震災や、大国に囲まれた日本の立場の弱さなど、日本の抱えている苦痛を混ぜ込んでいるのが巧みだ。
特に第5巻で、日本人が特地に拉致されているのを見た時に、伊丹は激昂して皇子を殴り飛ばす。その拳が日本人の感情として何を意味しているのかは、読めばすぐにわかるはずだ。
伊丹の行動は飄々としている。だが彼の軍事的行動が、日本人としての信義が、いつも鋭い点は見逃せない。
かなり複雑な政治・経済問題が絡んだ物語。その政治部分をマンガの技術を駆使して簡潔にまとめ、自衛隊無双を描いた作品に仕上がっている。まずは政治状態などはすっ飛ばしてもいいので、気軽にアクション娯楽作として読んでみてほしい。
読み終わった後、伊丹の行動が心にひっかかるはずだ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」