『ヒトミ先生の保健室』第3巻
鮭夫 徳間書店 \620+税
(2015年3月13日発売)
ある中学校の保健室に、悩みを抱えた女子生徒がやってくる。
3メートルの長い舌をもつ子、人目を意識すると透明になる子、身体がどんどん巨大化していく子、逆にどんどん縮んでいく子……。
彼女たちへ優しく適切なアドバイスで励ましてくれる養護教諭・ヒトミ先生は、顔の中央についた大きなひとつ目がチャームポイントの単眼(モノアイ)娘!
教師も生徒も異形にあふれ、フェティッシュな向きにはたまらない。
さすが『モンスター娘のいる日常』と同じ月刊COMICリュウ連載作、といった観。
しかし同時に、本作の人外っ子たちが抱えるのは「発育が進む身体が気になる」「自分が生きる世界との折りあいがうまくいかない」など思春期に普遍的な悩みの数々だ。
ヒトミ先生は、それを各生徒の個性として尊重し、生徒自身も自分を尊重できるよううながしていく。人外っ子たちの異形は「異」ではない、ただその子がそういう子として存在しているだけ。それでいい。
そしてそれは、私たち現実の人間もまた同様なのだと感じられてくる。
優れたファンタジーは、ふわふわして現実離れしたものではない。現実にある物事のエッセンスを抽出して受け手の心に響かせるものだ。
それが特によくあらわれているのが、最新の第3巻でメインを担うゾンビっ子の富士見さん。
死後の世界で亡者の群れに襲われたところを、死に別れていた祖父によって現世へ送り帰してもらい、不死身のゾンビとして蘇った少女だ。
バラバラになっても死なない肉体という物理的な題材だが、富士見さんとお祖父さんの絆がしめすのは「大切な人が死んでも忘れずいたみ続けるかぎり、その故人は私たちの心のなかで生き続ける」という、死を精神的に乗りこえるドラマである。
人外を象徴にして、人として大切なことを教えてくれる含蓄深い作品なのがよくわかる。
余談だが、このゾンビっ子のお祖父さんはゾンビ映画ジャンルの大御所ジョージ・A・ロメロ監督がモデル。作者の引き出しが筋金入りなのをうかがわせる。鮭夫先生、デビュー作もゾンビマンガなんですよねー。
人外っ子に萌えようと思ったらロメロ無双が始まったでござる! という最新巻。ホラー映画ファンにもおすすめだ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。プリキュアはSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7