複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「CMの隠れキャラ・一寸法師の正体が判明!」について。
『菅田将暉ファースト写真集 スダマサキッス』
主婦と生活社 ¥1,905+税
(2010年7月23日発売)
auの人気CM「三太郎」シリーズに隠れキャラがいたのはご存じだろうか?
桃太郎(松田翔太)、浦島太郎(桐谷健太)、金太郎(濱田岳)の3人、そして鬼(菅田将暉)以外にも、じつは一寸法師が従来のCMにも出演していたのだッ!
そしてこのほど、auから一寸法師のキャストが発表された。
同シリーズで一寸法師役を務めるのは前野朋哉。映画『桐島、部活やめるってよ』にも出演経験のある個性派俳優であり、みずから監督・脚本をも務めた映画『脚の生えたおたまじゃくし』は2010年にゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター・コンペティション部門で審査員特別賞を受賞した経歴を持つ。
現在30歳、次代を担う注目のニューカマーである。
一寸法師がこのCMシリーズに出演していたことは、ネット界隈では早くから話題になっていた。
とはいえ、一寸(=3センチメートル)はあまりに小さいために、よほど注意して画面を見ていなければ気がつかなかったとしても無理はない。ついつい見落としてしまいがちだ。
まさか21世紀になって一寸法師が脚光を浴びるとは思ってもいなかったが、マンガの世界では現在こそミニマム・ヒーローが静かなブーム。
そこで今回は、一寸法師のような小さなキャラクターが大活躍する作品を紹介する。
小さいサイズのキャラクターの、スケールの大きな活躍に注目しよう!
『ハクメイとミコチ』第1巻
樫木祐人 KADOKAWA ¥620+税
(2013年1月15日発売)
『ハクメイとミコチ』(樫木祐人)は、小さな女の子ハクメイとミコチの日常をつづったファンタジー作品。
本作中での人間(小人)たちは、動物や昆虫と普通に会話し、日常生活を営んでいる。ハクメイは大工仕事が得意で、ミコチは裁縫や料理を得意とし、2人は自分の長所を活かした仕事をしているのだ。
彼女たちのミニマルなスローライフをのぞき見るのはなんとも楽しい。
なんといってもハクメイのつくる料理(ミネストローネや山菜と干し肉のリゾットなど)がうまそう!
「飯のうまそうなマンガにハズレなし」の法則どおりである。
トンビの背中に乗って空を飛んだり、カミキリムシやイタチの背中に乗せてもらったり、ハクメイとミコチは本当に小さいのだが、彼女たちの身長は9センチメートル。
なんと一寸法師の3倍!
『月光条例』第1巻
藤田和日郎 小学館 ¥400+税
(2008年6月18日発売)
原寸サイズの……というより、実物の一寸法師が登場する作品といえば『月光条例』である。作者は先日、本サイトのインタビューにも登場してくれた藤田和日郎先生だ。
何十年かに一度の真っ青な月の光が、「おとぎばなし」の世界をおかしくしてしまった。
鉢かづき姫は「読み手」の世界へと助けを求めにやってきて、月光条例の執行者となった主人公・岩崎月光とともに、「おとぎばなし」の世界を正すための戦いをはじめる。
洋の東西を問わず、おとぎ話や童話のなかの登場人物が、現実世界に出てきて大暴れするのが本作の特徴。
一寸法師の場合、もととなる『お伽草紙』の世界では、最終的には中納言の地位にまで昇りつめているので、本作『月光条例』では最初は横柄な態度で登場する。
鼻っ柱の強い月光とはソリが合わないが、そんな2人がじょじょにバディ感を出していく過程がたまらない。
ちなみに原作の一寸法師は、針の刀で鬼の目を突ついて鬼を退治するが、反対に目から小人が出てきたのが『キン肉マン』だ。
小さくなってウォーズマンの体内に入った正義超人たちは、涙とともにウォーズマンの体内から脱出。ミートくんがスポイトで涙を吸いとり救出させた。
小さくなったら、とりあえず目を狙うのが正解らしいぞ。みんなもおぼえておこう!
『アントマン:セカンド・チャンスマン』
ニック・スペンサー(作) ラモン・ロザナス(画)
御代しおり、石川裕人(訳) ヴィレッジブックス ¥2,300+税
(2015年8月29日発売)
一寸法師よりさらに半分のサイズにまで変化するのが、アメコミヒーローのアントマンだ。
ピム粒子を操作するスーツを着用すると、身体の大きさをわずか1.5センチメートルにまで縮小できる。
なんと一寸法師の半分! 一寸の半分だから、アントマンは五分男なのである。
さらにアントマンは小さくなるだけではない。縮小しても通常時の筋力は維持されるので戦闘もバッチリこなせる。
さらにこのスーツには、身体を縮小するだけではなく、巨大化させる機能もある。つまり「うちでのこづち」もバッチリ内蔵済みだ。
なお、スーツを着用し、アントマンとして活躍するのはひとりではなく、歴代で複数人が存在する。その初代は、スーツの開発者である科学者のヘンリー・ピムだ。2015年公開の実写映画『アントマン』や今年公開された『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』などの「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズに登場するアントマンは、中身は2代目のスコット・ラングという妻子持ちの人物。
いずれにせよ『アントマン』は、小さいオッサンが活躍する作品なのである。
映画の原作とも呼べるコミックとしては『アントマン:セカンド・チャンスマン』(ニック・スペンサー作、ラモン・ロザナス画)をオススメしたい。
ちなみに初代アントマンは、昔のアメコミでは妻・ワスプに暴力を振るうシーンがある。そのためアメリカのファンのあいだでは「DV男」呼ばわりされているのだ。
実際のところ、妻に手をあげたのは一度きりだが、そのシーンの印象が強すぎるのだろう。
日本でいえば、『巨人の星』の星一徹がつねにちゃぶ台をひっくり返していると思われているようなものか。
原作のマンガでは、幼少期の飛雄馬をブッ飛ばしたときに、はずみでちゃぶ台がひっくり返ったことがじつは1回あっただけである。
まあ、2代目のスコット・ラングも初出時は刑務所に服役中で、別居中の妻に娘との面会時間を制限されていたりするので、つまりアントマンというのは、芸のためなら女房も泣かす春団治系DVヒーローというわけだ。
なんやその辛気くさい顔は。酒や、酒買うてこい!
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama