「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の新企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(以下、『シビル・ウォー』)は、2008年に公開された映画『アイアンマン』から始まる、マーベル・ヒーローが活躍する同一世界観を舞台とした「マーベル・シネマティック・ユニバース」(以下、MCU)シリーズの13作目にあたる作品。
同一世界観を舞台にしながら、別々のヒーローを主人公とした物語を描きつつ、そのヒーローたちがクロスオーバーしていくという新しい試みも、シリーズが8年経過した現在でも人気は衰えず、むしろMCU関連のアメコミ映画=はずれなしと言われるほどの安定感を得るまでに至っている。
そして、最新作となる映画『シビル・ウォー』は、マーベル・コミックスのなかでも衝撃的と言われた、マーベル・ユニバースの全ヒーローを巻きこんだ、原作の大型クロスオーバーエピソード『シビル・ウォー』をベースにした物語となっていることから、アメコミファンからは大きな注目を受けてきた作品でもあるのだ。
原作の『シビル・ウォー』は、若きヒーローチームの行動が引き金となった事故によって、周辺住民600人を巻きこむ大惨事が起こり、それきっかけに大量破壊兵器並の特殊能力を持つヒーローを政府が管理するべきという意見が巻き起こったことから始まる。
その結果、ヒーローが政府に登録し、管理される「超人登録法」が制定されることとなり、この状況に対しヒーローコミュニティは、アイアンマンをはじめとする法を遵守して政府の認可のもとヒーロー活動をすべきという登録賛成派と、ヒーローが戦うべき相手を政府が決定してしまうことを危険視するキャプテン・アメリカ率いる登録反対派の二派に分裂。
法案の可否をめぐってヒーロー同士の内戦=シビル・ウォーに発展してしまう状況が描かれる。
登場するキャラクターは100人以上で、2つの派閥を中心に寝返るヒーローや状況に翻弄されて意見を変えるヒーロー、さらには内戦という状況を利用して活動するヴィランの存在などが絡むことで、世界観を揺るがす大規模な戦いへと発展し、政治的な側面を含めてヒーローの存在やその主張を考える物語となっている。
一方、映画『シビル・ウォー』では、原作に比べるとヒーローの人数が少ないため、戦いの規模こそ大きくないが、原作で描こうとしたテーマを尊重しつつ、MCUだからこそ可能な表現を行っている。MCUで積み重ねきたアベンジャーズの活躍は、人類を救うという結果だけでなく、周辺を巻きこむコラテラルダメージ(副次的被害)を生みだしてしまい、世論から批判されることになる。
そして、それに端を発する形でヒーローを政府が管理すべきという法案が成立。その法案をめぐって、ともに世界を救ってきたアベンジャーズの内部で登録賛成派と反対派に別れてしまうという展開となっている。原作では、異なる思想の激突の結果が内戦に至るという政治的な要素が多く含まれていたが、映画ではもっとわかりやすく、それでいてよりプリミティブな要素である「友情」がアベンジャーズを2つに引き裂くことになる。
アベンジャーズは軍隊とは違い、あくまで個人の信頼関係によって繋がれたチームであり、友情によって結束されていたと言ってもいい状態であった。そのため、コラテラルダメージによってアベンジャーズの存続が危うい状態になった際にも、考えは異なりつつも、キャプテン・アメリカも政府への登録をすべきかもしれないと悩む。
しかし、キャプテン・アメリカの古くからの友人ながら、洗脳され敵対する組織の暗殺者として行動していたウインター・ソルジャーことバッキー・バーンズを、政府がテロの実行犯として「捕らえるべき敵」と断定するに至り、状況は一変する。
それは、キャプテン・アメリカが懸念していた「政府が敵を決めることが、絶対的に正しいことでない」ということを具現化する出来事であり、政府の判断に従っていたら友人を救えないという現実を実感するものだった。友人を救うべく自分の判断で行動するキャプテン・アメリカと、それでも政府に従うべきだと信じるアイアンマン。
アベンジャーズのメンバーもそれぞれに同調する形で二分され、全面対決へと発展することになる。
異なる主張のもと、2つに別れてしまったヒーローチームの戦いはどのような結果が待っているのだろうか?
この作品の最大のポイントは、キャプテン・アメリカの考え方も、アイアンマンの考え方も、どちらも正しいということにある。
これは、ある意味アメリカという国が抱える「正義」と重なる部分であり、キャプテン・アメリカは古くから連なる自由主義のアメリカの理念を、アイアンマンは世界の警察たるアメリカの現実を体現しており、このどちらも正しいながらも相反することなる考えを、ヒーローというフィルターを通すことで「正義とは何か?」という形で問うているとも言えるのだ。
この究極的な疑問をどう捕らえるか?
その深遠さこそが、本作の最大の魅力と言えるだろう。
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の映画を観たあとは……
何を隠そう、「このマンガがすごい!WEB」は、マンガの情報サイト! そんなわけで、映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしいマンガを紹介しちゃいますよっ。
『シビル・ウォー』マーク・ミラーほか
『シビル・ウォー【限定生産・普及版】』
マーク・ミラー(作) スティーブ・マクニーブン(画) 御代しおり、石川裕人(訳)
ヴィレッジブックス ¥1,850円+税
(2016年4月9日発売)
本文中でも触れた原作コミックス。超人登録法をめぐるヒーロー同士の内戦の規模は、映画で描かれる内容とは比較にならないほど大きく、政治色の強い物語となっている。
主軸となる原作は1冊だが、ヒーローたちの超人登録法に対する姿勢を描いた関係書籍である『シビル・ウォー』クロスオーバーは20冊以上も発売されており、ヒーローによる「正義」の解釈だけでなく、9.11全米同時多発テロを受けて制定された「愛国者法」に対する批判や、人種差別やマイノリティな立場の人に対する考え方などをさまざまなヒーローの視点を知ることができる。
そして、シリーズ全体を読めば日本のコミックスにはない広大な世界を体感することができるだろう。
『キャプテン・アメリカ:ウインター・ソルジャー』エド・ブルベイカーほか
『キャプテン・アメリカ:ウインター・ソルジャー』
エド・ブルベイカー(作) スティーブ・エプティング(画) 堺三保(訳)
小学館集英社プロダクション ¥2,600円+税
(2011年9月28日発売)
MCUの『キャプテン・アメリカ』シリーズの第2弾の原作となったコミックス。
映画版以上に、キャプテン・アメリカとウインター・ソルジャーことバッキー・バーンズの過去に重きをおいた作品となっているが、キャプテン・アメリカの長い歴史を俯瞰(ふかん)し、彼がどんなヒーローとして社会や政治、社会情勢に翻弄されてきたのかという部分も描かれている。
キャプテン・アメリカというヒーローをより深く知るための1冊だ。
『デス・オブ・キャプテンアメリカ:デス・オブ・ドリーム』&
『デス・オブ・キャプテンアメリカ:バーデン・オブ・ドリーム』エド・ブルベイカーほか
『デス・オブ・キャプテンアメリカ:デス・オブ・ドリーム』
エド・ブルベイカー(作) スティーブ・エプティング(画) 秋友克也(訳)
ヴィレッジブックス ¥3,300+税
(2011年10月29日発売)
『デス・オブ・キャプテンアメリカ:バーデン・オブ・ドリーム』
エド・ブルベイカー(作) スティーブ・エプティング、
マイク・パーキンス、ブッチ・ガイス、ロバート・デ・ラ・トーレ(画)
石川裕人、近藤恭佳(訳) ヴィレッジブックス ¥3,300+税
(2011年11月30日発売)
『シビル・ウォー』での戦いの後日談を描いた物語。主人公となるのは、キャプテン・アメリカの過去の相棒であったウインター・ソルジャーことバッキー・バーンズと、現在によみがえってからの相棒であったファルコンことサム・ウィルソンの2人。
この「キャプテン・アメリカの二人の相棒」がともに行動する部分は、映画『CW/CA』劇中シーンのベースにもなっている。また、象徴としてのキャプテン・アメリカの存在を理解するのに適した作品ともいえるだろう。
<文・石井誠>
1971年生まれ。アニメ誌、ホビー誌、アメコミ関連本で活動するフリーライター。アメコミファン歴20年。
洋泉社『アメコミ映画完全ガイド』シリーズ、ユリイカ『マーベル特集』などで執筆。翻訳アメコミを出版するヴィレッジブックスのアメリカンコミックス情報サイトにて、翻訳アメコミやアメコミ映画のレビューコラムを2年以上にわたって執筆中。