ハリウッド映画にテレビアニメーション、フィギュア、雑貨、アパレル……と、もはや日本でも見ない日はないと言っても過言ではなくなった(!?)感のあるアメリカン・コミックス。
もちろん、書店にも「アメコミ」という棚が作られ、邦訳されたアメリカン・コミックスの人気シリーズがズラリと並んでいます。
なかでも人気のアメコミは、日本でもシリーズとして、長く刊行されているものが多数。
そこで今回は、海外コミックを積極的にリリースしている出版社・ヴィレッジブックスさんのアメリカン・コミックス情報サイトにて、翻訳アメコミに関するコラム執筆を担当されているライターの石井誠さんに、読んでおきたいヴィレッジブックス刊行の翻訳アメコミ名シリーズを教えていただきました!
石井誠さんオススメの3シリーズ!
『ニューアベンジャーズ』シリーズ
『ニューアベンジャーズ:ブレイクアウト』
ブライアン・マイケル・ベンディス(作)デヴィッド・フィンチ(画)ヤスダ・シゲル(訳)
ヴィレッジブックス \2,800+税
(2010年5月29日発売)
現在まで、シリーズ名が付いたタイトルだけで9冊、そこに関連するタイトルを入れれば20冊を超える大河シリーズとも言えるのが、ヴィレッジブックスの『ニューアベンジャーズ』シリーズ。
アメコミ初心者はこのボリュームに圧倒されてしまうかもしれませんが、個人的には「これぞヒーローアメコミの真骨頂!」と言える内容を、邦訳アメコミでどっぷりと楽しめる卓越したシリーズだと思っています。
とある事件で崩壊したアベンジャーズを再結成すべく、キャプテン・アメリカが中心となって、アイアンマン、スパイダーマン、ウルヴァリンらを招集する『ニューアベンジャーズ:ブレイクアウト』から物語は始まります。
このストーリーは、2016年に公開が決まった実写映画『キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー』の原作である、ヒーロー同士の内戦を描く『シビル・ウォー』、マーベルユニバースを揺るがす大侵略『シークレット・インベーション』、ヴィランによる新たなアベンジャーズが結成される『ダークアベンジャーズ』といった、マーベルの世界観を揺るがすような多数のヒーローとヴィランが交錯する戦いが描かれる物語の柱となっています。
『ニューアベンジャーズ』を基点に起こる、さまざまな事件を追うことで、日本のマンガでは表現されていない、多数のヒーローがひとつの世界に存在するマーベルユニバースの世界観を体感することができます。
さらに物語も1月末に発売された『シージ』で完結するので、まとめて読むにはいいタイミングかもしれないです。
アメリカ本国では、このシリーズによるアベンジャーズの復権が、その後の実写映画=マーベルシネマティックユニバース成功の一因とされています。その意味では、映画でアメコミに興味を持った人には読んでほしいなと思います。
読み始めるまでのハードルの高さは理解していますが、アメコミ世界の広さと深さ、そして複雑さも込みで楽しめるシリーズなので、個人的には超絶に推していきたいです。
『ビフォア・ウォッチメン』シリーズ
『ビフォア・ウォッチメン:ナイトオウル/Dr.マンハッタン』
J・マイケル・ストラジンスキー(作)
アンディ・キューバート/アダム・ヒューズ/エドゥアルド・リッソ(画)秋友克也(訳)
ヴィレッジブックス \2,600+税
(2010年5月29日発売)
アメリカン・コミックスの歴史の中で、多くのアメコミファンが「最高傑作」と認めるタイトルと言えば、アラン・ムーアが手がけた『ウォッチメン』。
その深いテーマ性と、細部までこだわって描き込まれたアートは、1986年に発表されて以降、現在でも高い支持を受け続けています。
その『ウォッチメン』に登場する個性的なキャラクターたちの「ビフォア=過去の物語」を描くのが『ビフォア・ウォッチメン』シリーズです。
それぞれのキャラクターの過去を紡ぐにあたって、DCコミックスは、現在活躍するアメコミ・アーティストやライターのなかから、まさに最高峰とも呼べる面々を集めて執筆を依頼。その豪華さは『ウォッチメン』という唯一無二のタイトルだからこそ可能な夢の競演といえるでしょう。
作家によって異なる表現やテーマ性は、一般的なヒーローアメコミとは異なる深遠さを持っています。
『ウォッチメン』というタイトルを読んでいるという前提が必要なシリーズではありますが、邦訳で読めるアメコミの最高傑作、その影響力の大きさを感じられる前日譚を、ぜひ体験してもらいたいです。
『ヘルボーイ』シリーズ
『ヘルボーイ:疾風怒濤』
マイク・ミニョーラ(作)ダンカン・フィグレド(画)石川裕人/今井亮一(訳)
ヴィレッジブックス \3,200+税
(2013年12月10日発売)
ここまで紹介した2シリーズは、アメコミらしい「出版社が持つキャラクターを、さまざまな作家やアーティストが、時代性に合わせて描く」というスタイルの作品ですが、この『ヘルボーイ』はちょっと違います。
本作は、マーベルやDCコミックに比べると規模の小さい新興出版社、ダークホースコミックスの看板タイトルです。
ギレルモ・デル・トロ監督によって実写映画化もされている『ヘルボーイ』は、ストーリーとアートをマイク・ミニョーラが一貫して担当(一部は別作家が作画しているパートもありますが、ストーリーは本人が手掛けています)。
ナチスドイツによって地獄から召喚された地獄の子=ヘルボーイが、超常現象を調査する組織に身をおいて、世界各地のオカルト的な伝承にまつわる怪事件を解いていきながら、自身の出生に秘密にも迫る物語。
コントラストの強いアーティスティックなタッチで描かれており、いわゆるヒーローアメコミとは違った魅力にあふれています。
日本のマンガに近いスタイルで、作家性を前面に出した筆致はアートに近い感覚ながら、ヒーローアメコミ的なエンターテインメント性も持ち合わせているので、一読すればアメコミの概念が吹っ飛ばされます。
本作はアメコミとしては珍しく、第1話からすべてのエピソードが翻訳出版されているので、その魅力を最初から味わうことができるのもポイント。
ちょっと毛色の違うアメコミを味わいたい人にオススメです。