『シャザム!:魔法の守護者』
ジェフ・ジョーンズ(作)ゲイリー・フランク(画)中沢俊介/内藤真代(訳)
小学館集英社プロダクション \2,000+税
(2015年2月7日発売)
「SHAZAM」と聞いたら、ほとんどの人が思いつくのは「アプリの名前?」というところだろうか。
これ、じつは「アブラカダブラ」や「チチンプイプイ」といった、魔法の呪文にあてられる英単語のひとつ。この言葉を定着させたのが、今回紹介する『シャザム!魔法の守護者』の主人公であり、魔法の呪文ひとつで少年から超人へと変身するヒーロー「シャザム」だ。
シャザムの歴史は古く、なんと今年で75周年。1940年代には、元祖スーパーヒーローであるスーパーマンを超える人気をほこっていた。
その後は年月を経てバットマンやスーパーマンと同じDCコミックスの世界の住人となり、スーパーマンと渡りあえるヒーローの代表格としての地位を確立していくことになる。そうした過程で、「SHAZAM!」という言葉も、魔法の呪文の典型として定着していったというわけだ。
アメコミもあまりに長くなると、とっつきづらくなるのはアメリカ人も一緒。そこでDCコミックスは「NEW52」と銘打って、2011年から全部のヒーローを現代風にリニューアルしたのだけど、これが成功して新しい読者層を獲得した。
その「初めての読者でもここから読める!」というコンセプトのもとに送り出され、高い評価を得たのが、『シャザム!魔法の守護者』だ。
主人公は孤児ビリー・バットソン。すっかり世をすねた15歳の不良少年。新しい里親と兄弟姉妹に、せっかく暖かく迎えられたのにもかかわらず心を閉ざしたままだ。その一方で、不当な世界への不満からくる、曲がったことは許せない正義感も秘めている。
そんな彼はある日、世界の裏側で魔法の力を守護していた魔術師に、新しい守護者として任命されてしまう。
魔術師からビリーに与えられた呪文「シャザム!」を叫ぶと、ビリーは魔力をそなえた大人のヒーロー、シャザムに変身する……しかしその中身は、15歳のビリーのまま。
パワーを手に入れたティーンエイジャーが何をするかといったら、やりたい放題に決まってる!
せっかく大人の見た目を得たんだから、ビールを買いにいこうとするわ、魔力を使ってATMからお金を盗もうとするわ。こんなやつが本当に正義の守護者になれるの……!? と、読んでるこっちは心配になってくる。
ところが時を同じくして、魔力を悪用したために封印されていた先代の守護者、ブラックアダムも現代に復活し、力を奪うためにビリーにおそいかかる。こいつは自分ではいまだに守護者のつもりだが、その性格は冷酷無比で、街を、そして世界をふみにじろうとしている。
新しい家族のさし伸べる手、ブラックアダムの脅威、そして守護者としての責任と、全てに背をむけてきたビリーが、いかに世界を守るヒーローとして成長していくか? が見どころとなる。
アメコミのなかでも、「スーパーヒーローもの」という分野は、「普通の人がパワーを得たうえで、なぜタイツを着て変わった名前を名乗り、なぜ人を助け悪と戦うにいたったか」について、ずっと考え続けてきたジャンル。
本作は75年の歴史を経たキャラクターを新しい視点で語り直して、「なぜヒーローはヒーローなのか?」という問いへの回答を提示してる。アメリカのヒーローコミックとはどんなものなのかという、アメコミを読んだことがない初めての人にも、DCコミックスは読んだことがないという人にも、最初の1冊としてぜひおすすめしたい作品だ。
最後に付け加えると、『シャザム!』は2019年公開予定で映画化がアナウンスされていて、敵役のブラックアダムには、あのロック様ことドウェイン・ジョンソンがすでに決定している。ぜひ期待したいところだ。
<文・Captain Y>
アメコミオタク。クリエイター・オリジナル作品専門の邦訳アメコミ出版社Sparklight Comicsから、翻訳監修を担当したノワールホラー『ファタール』日本語版第1巻発売中。
ブログ:「Codex 40000 建設予定現場」
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